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アルコール性肝障害

掲載日:2016年7月12日/ 改訂日:2024年6月25日

1. 疾患概念

アルコール性肝障害とは

アルコール性肝障害とは、長期(通常は5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で、以下の条件を満たすものを指します。

【出典】日本アルコール医学生物学研究会(JASBRA)診断基準(2011年)(参考資料)

  1. 過剰の飲酒とは、1日に純エタノールに換算して60g以上の飲酒(常習飲酒家)をいう(表1)(ただし女性や遺伝的にお酒に弱いひとでは、1日40g程度の飲酒でもアルコール性肝障害を起こしうると言われている。)。
  2. 禁酒により 血清AST、ALTおよびγ−GTP値が明らかに改善する。
  3. B型肝炎やC型肝炎などの肝炎ウイルスマーカーや抗ミトコンドリア抗体、抗核抗体などの自己免疫性の肝臓病を疑う検査値がいずれも陰性である。

表1 各種アルコールの換算表

種類 アルコール
度数
アルコール
換算量
ビール(中瓶1本) 500 ml 5% 20g
日本酒 1合 180ml 15% 22g
焼酎 1合 180ml 35% 50g
ワイン(1杯) 120ml 12% 12g
ウイスキー ダブル 60ml 43% 20g
ブランデー ダブル 60ml 43% 20g

2. 診断

2-1.診断基準

アルコール性肝障害の診断には、(1)肝機能異常の評価、(2)飲酒歴の確認、(3)アルコール以外の原因による肝障害の除外が必要です。

(1)飲酒歴の聴取とアルコール依存症の診断

飲酒歴の聴取は極めて重要です。本人の申告では飲酒量を少なく申告する傾向があり、客観的な評価のためには、第三者(家族、友人、職場の同僚など)からの聴取も必要となります。

アルコールには身体的、精神的依存性があり、アルコール依存症は精神神経疾患の範疇に分類されます。アルコール関連問題のスクリーニングテストとしてAUDIT-Cが用いられます。過去1年間の飲酒状況に関して3項目の質問に答える形式となっており、男性5点以上、女性4点以上の場合はアルコール依存症の疑いとなります7)。アルコール依存症の診断のために、CAGE法、ICD-10、KAST法などが用いられています。依存症の診断、治療においては、精神神経科医師との連携が必要です。

(2) アルコール性肝障害の診断基準

アルコール性肝障害の診断基準は、これまで、いくつかの基準が用いられてきましたが、現在は2011年アルコール医学生物学研究会(JASBRA)から提示された「JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版)」(参考資料)が用いられています。

(3) 身体所見

アルコール性肝障害に特異的な自覚症状や身体所見はありません。他の肝疾患と同様に、肝機能異常が軽い時期には、お腹が張る、疲れやすい、食欲がないなどの自覚症状がみられることがあります。 

重症アルコール性肝炎では、飲酒を止めたにも関わらず肝臓の腫れが続き、腎不全、消化管出血、肝性脳症など重篤な合併症を合併することがあります。 

肝障害が進展して肝硬変になると、全身倦怠感、クモ状血管腫、女性化乳房、手掌紅斑、皮膚掻痒感、黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症などが認められます。

(4) 血液検査

アルコール性脂肪肝では、AST/ALT比の上昇を伴う軽度のAST・ALTの上昇、γ−GTP上昇、高脂血症、コリンエステラーゼ上昇などを認めます。 

アルコール性肝障害では、ミトコンドリア分画AST上昇が特徴的です。またIgA上昇、大球性貧血などを認めることがあります。他の要因による肝障害よりも、PIVKA-IIの陽性率が高いとされます。血清糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)は、2ヶ月以上純アルコール換算60グラムを超える飲酒を継続すると上昇し、欧米では習慣飲酒のマーカーとして使用されています。%CDT(CDT/トランスフェリン)はアルコール性肝障害の補助診断として有用性が期待されています(日本では保険適用外)。 

アルコール性肝炎では、AST/ALT比の上昇、AST・ALT・γ−GTPの著明な上昇、コリンエステラーゼ低下、線維化マーカーの上昇、高脂血症、白血球増加(多核好中球増加)、ビリルビン値上昇、低アルブミン血症、PT値低下、高乳酸血症などを認めます。 

肝硬変では、汎血球減少症、PT値低下、低アルブミン血症、ビリルビン上昇、高アンモニア血症などを認めます。

2-2.アルコール性肝障害の病型診断

「JASBRAアルコール性肝障害の診断基準(2011年版)」では、肝障害の病型を5つに分類しています(参考資料1のII)

アルコール性肝障害の自然経過を図1に示します。

アルコール性肝障害の自然経過

図1 アルコール性肝障害の自然経過

アルコール性肝障害の進行に寄与する因子として、女性、肥満、食習慣、アルコール代謝酵素遺伝的多型性、喫煙などが報告されています。またHBV、HCVなどの肝炎ウイルス、HIVなどの免疫不全ウイルスの関与も想定されています。

2-3.各病型の特徴

アルコール性脂肪肝(Alcoholic fatty liver)

肝臓への脂肪蓄積はアルコールに対する初期反応です。常習飲酒家の90%に脂肪肝を認めます。飲酒の継続により、そのうち10~20%がアルコール性肝炎へ進展します(図1)。肝障害の機序に酸化ストレスが関与していると言われています。 

禁酒によって、症状・検査値が改善するのが特徴です。 

アルコール性脂肪肝の組織像の特徴は、(1)大滴性脂肪化、(2)核は脂肪滴に押されて偏在、(3)泡沫脂肪細胞(Foamy fatty change)(微小滴脂肪化が全体に存在し、核は中央に存在する)、(4)水腫様腫大細胞(Hydrophilic swelling cell)(細胞全体が腫大するが脂肪滴はない)、などがあります(図2)。

アルコール性脂肪肝の組織像

図2 アルコール性脂肪肝の組織像


エタノールの代謝経路

図3 エタノールの代謝経路

アルコール性肝炎(Alcoholic hepatitis)

慢性アルコール性肝障害を背景に、大量飲酒を契機に発症する急性肝障害をいいます。 

重症型アルコール性肝炎(Severe Alcoholic Hepatitis: SAH)は、禁酒しても肝腫大が持続し、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、消化管出血、エンドトキシン血症などを合併し、多くは1ヶ月以内に亡くなると言われています。 

重症アルコール性肝炎の生存率は不良です。1992年全国調査で23.8%、1998-2002年で33.6%でしたが、2003年で66.7%と改善傾向にあります8)

合併症の消化管出血と感染症が死亡率増加に関与しており、救命のためには早期発見と早期治療介入が重要です。 

アルコール性肝炎の組織所見の特徴は、(1)肝細胞壊死、(2)小葉中心性の肝細胞の風船様腫大、(3)白血球(好中球)浸潤、(4)胆汁うっ滞、(5)中心静脈周囲や肝細胞周囲の線維化(図4)、(6)Mallory-Denk体(マロリー・デンク体)などです。

アルコール性肝炎の組織像

図4 アルコール性肝炎の組織像(中心静脈周囲や肝細胞周囲の線維化)

アルコール性線維症

多くは、自覚症状を認めません。 

アルコール性線維症の組織所見の特徴は、(1)門脈域星芒状線維化、(2)肝細胞周囲線維化(Pericellular fibrosis)、(3)中心静脈周囲線維化(Perivenullar fibrosis)などです。 

肝臓がだんだん硬くなる変化を指す線維化の原因としては、アセトアルデヒドやリポポリサッカライド(LPS)などによって肝臓を構成する細胞の一種である星細胞の活性化が起こり、細胞外マトリクスが増加することが関与していると言われています。

アルコール性肝硬変

アルコール性肝炎患者が、重症化することなく長期に大量飲酒を継続すると、線維化が進行し、肝硬変へ至ります。 

男性では日本酒5合を20~30年、女性では男性の3分の2の飲酒量を12~20年で肝硬変に進行するとされています。 

アルコール性肝硬変の組織所見の特徴は、小結節偽小葉(直径3ミリ以下)の形成が典型的です。ウイルス性肝硬変では大結節偽小葉となります。

アルコール性肝癌

WHOのInternational Agency for Research on Cancer (IARC)は、アルコール飲料が口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸、女性の乳房のがんの原因であることを認めています。「アルコール飲料」、「アルコール飲料中のエタノール」、「飲酒と関連したアセトアルデヒド」は発癌性への根拠が十分なGroup 1の発がん物質に認定されました9)

アルコール性肝癌にはHCV感染例が多いと報告されています。 

アルコール性肝硬変からの肝癌の発症には、年齢、男性、肥満、糖尿病が危険因子になると報告されています10)

3. 治療

アルコール性肝障害の治療の基本は断酒に尽きます。 

断酒を補助する目的で抗酒剤が用いられることがあります。現在使用可能なものは、いずれもALDH阻害剤のジスルフィラム(商品名:ノックビン)とシアナミド(商品名:シアナマイド)です。両薬剤ともアセトアルデヒドの肝臓での分解を抑制し、吐き気などの不快な症状を起こすことでアルコール類の摂取を避けさせるために使用されます。 

アルコール依存症の治療には精神神経科的・社会的アプローチが必要となります。断酒会への参加や、自治体による節酒や断酒に関する啓発活動など、常習飲酒家に対して寛容になり過ぎない社会を構築していくことが重要です。 

断酒している人が服用すると断酒率があがる薬として、アカンプロサート(商品名:レグテクト)があります。主に脳内のNMDA受容体を介する神経伝達を阻害することで、飲酒への欲求を抑える効果があるとされています。

2018年には飲酒量低減(ハームリダクション)という治療選択肢を加えた「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」7)が公開されました。飲酒量低減の目安として、男性では1日平均40g以下、女性では平均20g以下の飲酒が目安とされました。飲酒量低減を目的とした薬剤としてはナルメフェン(商品名:セリンクロ)が推奨されています。しかしナルメフェンの販売開始当初は、処方出来るのは精神科を中心とした「適切な研修を受けた医師」という条件が課されており、多くの肝臓専門医はナルメフェンを処方できない状況でした。肝臓学会はアルコール関連専門学会と連動して、2021年11月から「アルコール依存症の診断と治療に関するeラーニング研修」の配信を開始し、同研修を受講した肝臓専門医等もナルメフェンの処方が可能となるようにしました。2022年5月からは、eラーニング研修はメディカルスタッフも受講可能としています。

3-1. アルコール性脂肪肝

アルコール性脂肪肝は断酒のみで治癒します。 

アルコール性脂肪肝は過栄養を伴う生活習慣病の側面を有しているため、減量、脂肪制限、糖質制限などを行います。

3-2. アルコール性肝炎

アルコール性肝炎の患者では、蛋白やカロリー、その他、多種の栄養素が欠乏状態となっている場合が多くみられます。栄養療法として、高蛋白(1.5g/kg/日)、高エネルギー食(35kcal/kg/日程度)を摂ります。またビタミン(ビタミンA、B、D、葉酸など)や微量元素(亜鉛など)も欠乏していることが多く、補充が必要となります。 

長期間の飲酒によりビタミンB1が欠乏すると、多発神経炎やWernicke脳症を来たし、ビタミンB12が不足すると大球性貧血や末梢神経炎を起こすことがあります。また、血清マグネシウムの低下によってふるえや周囲の状態が認識できない「せん妄」が発症することがあるため、適宜補充を行います。 

大量飲酒者では、アルコール利尿による脱水や、乳酸の過剰摂取によって体液が酸性に傾くアシドーシスという状態になる傾向があります。乳酸含有製剤を不用意に投与すると、乳酸アシドーシスを助長することがあるため注意が必要です。 

重症アルコール性肝炎の治療として、副腎皮質ホルモン、血漿交換、白血球除去療法、エンドトキシン吸着カラムなどが試みられています11)

重症アルコール性肝炎の治療において、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)の予後改善効果に関する評価は定まっていません12)。ステロイドを長期間投与すると免疫能の低下を来たし、重症感染症を併発して致命的となる場合があります。 

重症アルコール性肝炎に対しては、低脂肪食による完全腸管栄養によって予後が改善したという報告や、抗酸化剤(N-acethylcystein)とステロイドの併用によって1ヶ月目での生存率が改善したという報告があります13)。いずれも臨床研究の段階に留まっており、その評価に関しては今後の課題となります。

3-3. アルコール性肝硬変・肝癌

アルコール性肝硬変では、栄養療法として蛋白制限や分岐鎖アミノ酸製剤(BCAA)の投与が行われます。 

欧米ではアルコール性肝硬変、肝癌の治療として肝移植が考慮されます。アメリカでの肝移植症例のうち、約20%がアルコール性肝疾患です12)

4. 予後

アルコール性肝炎の重症度評価・予後予測に関しては、欧米では様々なスコアリングシステムが提唱されています。これらは短期での生存可能性とステロイド投与の必要性を評価する目的で用いられています。 

本邦でも、堀江らによって重症アルコール性肝炎の予後予測式 [死亡率(%)=150- 1.81x %PT- 0.168x RBC (/mm3)+ 0.001x WBC (/mm3)]が提唱されています11)

JASBRAアルコール性肝障害の診断基準(2011年版)では、アルコール性肝炎重症度スコア(Japan Alcoholic Hepatitis Score, JAS)が提示されており、10点以上は重症であり積極的な治療介入が必要としています1)(参考資料)

アルコール性肝硬変患者の予後は、断酒に成功すれば改善します。飲酒継続者では、5年後の生存率は35%ですが、断酒成功者では88%に向上します14)。根気よく断酒を達成させる努力が何より重要です。 

文献

  1. アルコール医学生物学研究会:JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版). アルコール医学生物学研究会. 旭川. 2012
  2. 簡易版アルコール白書2011版:日本アルコール関連問題学会 http://www.j-arukanren.com/news/2011.html
  3. 鈴木康秋、他. 集計報告:我が国における非B非C肝硬変の実態―第15回日本肝臓学会特別企画「主題ポスター討論:我が国における非B非C肝硬変の実態調査」の集計報告―. In:高後裕監修、青柳豊、他編. 我が国における非B非C肝硬変の実態調査2011. 札幌:響文社:2011. 6-16.
  4. 高田昭、他:わが国におけるアルコール性肝障害の実態(その3)―1992年全国集計の成績からー. 日本消化器病学会雑誌. 1994;887-898.
  5. Gao B, et al. Alcoholic liver disease: Pathogenesis and new therapeutic targets. Gastroenterology. 2011: 141: 1572-1585.
  6. 大竹孝明、他:メタボリック症候群と飲酒. 日本消化器病学会雑誌. 2012; 109:1535-1540.
  7. 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン作成委員会 監修:新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン. 新興医学出版社. 2018
  8. 堀江義則. 重症型アルコール性肝障害の最近の動向. 医学のあゆみ. 2008; 222: 42-47.
  9. IARC: IARC Monographs on the evaluation of carcinogenic risks to humans. Vol. 96, Alcohol beverage consumption and ethyl carbamate (urethane), IARC, Lyon, 2010.
  10. 堀江義則、他. わが国における肝細胞癌合併アルコール性肝硬変患者の特徴. 肝臓. 2011; 52:70-73.
  11. Horie Y, et al. Severe alcoholic hepatitis in Japan: Prognosis and therapy. Alcohol Clin Exp Res. 2005; 29: 251S-258S.
  12. O’shea RS, et al., AASLD Practice guidelines, Alcoholic liver disease. Hepatology. 2010; 51: 307-328.
  13. Mathurin P, et al. Management of alcoholic hepatitis. J Hepatol. 2012; S39-S45.
  14. Yokoyama A, et al. The impact of diabetes mellitus on the prognosis of alcoholics. Alcohol Alcohol. 1994; 29: 181-186.