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急性肝炎

掲載日:2016年7月12日/ 改訂日:2023年6月14日

1. 急性肝炎とは

 

急性肝炎とは、主に肝炎ウイルスの感染が原因でおきる急性の肝機能障害を呈する病気です。症状としては、黄疸、食欲不振、嘔気嘔吐、全身倦怠感、発熱などがあります。今までに肝炎ウイルスとしては、A、B、C、D、E型の5種類が確認されています。急性肝炎は一般的には経過が良好な疾患ですが、約1~2%の患者は劇症化し、一度劇症化すると高率に死に至る可能性が高くなり、肝臓移植治療が必要となることがあります。

2022年の春ごろから欧米を中心とする海外の国から、小児における原因不明の急性肝炎例が報告されています。WHOの報告によると、5歳以下の例が多く(75.4%)、重症化例の頻度は14.1%で、アデノウイルス感染や新型コロナウイルス感染との関連が示唆されていますが、その原因は明らかではありません。

なお、2023年6月の時点で小児における原因不明の急性肝炎は世界的には終息傾向にあり、また少なくとも日本では、今までにアウトブレークは確認されていません。1)

2. 急性肝炎の発生頻度

2014年から2022年までの期間のわが国の急性肝炎の起因ウイルス別発症頻度は、A型(約17%)、B型(約32%)、C型(約5%)、E型(12%)、非A非B非C非E型(34%)であり、原因不明のタイプとB型の頻度が高い傾向がみられています。(国立病院機構37病院の集計結果から) 

2018年には地域によってA型肝炎の小流行がみられました。2018年7月、A型肝炎患者の報告数が増加したこと、通常の感染経路とは異なり推定される感染経路として性的接触が多いことなどの注意喚起が厚生労働省からおこなわれましたD型急性肝炎は、その診断そのものが困難で正確な感染状況は把握されていませんが、B型肝炎ウイルスと共存した形でしかウイルスが存在しえないこと、感染者そのものが少ないことから、日本では極めて稀と考えられています。E型肝炎は、2000年頃から北海道や関東地域でE型肝炎急性肝炎例の集団発生、流行が問題となってきています

3. 感染経路

A型やE型は経口感染であり、ウイルスに汚染された水、食物を介して感染します。B、C、D型は血液、体液を介してウイルスが体内に入り込むことで感染が成立します。(B型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルスの感染について、詳しくは各項をご覧ください。)E型肝炎は人畜共通感染症であり、ウイルスに汚染され加熱調理が不十分な肉食(豚肉、猪肉、鹿肉)など感染が成立することから注意が必要です

4. 潜伏期

肝炎ウイルスが体内に侵入してから症状が出現するまでの期間を潜伏期と呼びます。ウイルス性急性肝炎の潜伏期は通常は、3週間から8週間の範囲ですが、B型、C型では6ヶ月間の潜伏期である場合があります。また肝炎ウイルスに感染しても自覚症状を示さず、不顕性感染*で経過する例も少なくないと言われています。  

*不顕性感染:ウイルスなどの感染が成立していながら臨床的に明らかな症状を示さない感染様式のことを指します。

5. 臨床所見、症状

  1. 前駆症状(発熱、咽頭痛、頭痛などの感冒様症状)
  2. 黄疸、褐色尿
  3. 食欲不振
  4. 全身倦怠感
  5. 嘔気、嘔吐
  6. 腹痛
  7. その他(関節痛、発疹)

急性肝炎の前駆症状は、いわゆる感冒様症状(発熱、咽頭痛、頭痛)であり、病初期はしばしば感冒と診断され感冒薬を処方されている例が少なくありません。この時点での急性肝炎の診断は困難です。肝障害が生じていることを示す特異的症状は黄疸であり、通常は、眼球の結膜の色の黄染、皮膚の黄染が出現する数日前から褐色尿が観察されます。褐色尿とは、ウーロン茶のような色をした尿であり、黄疸の進行とともにコーラのような色へと色が黒く変化します。黄疸の出現とほぼ同じ時期に食欲不振、全身倦怠感、嘔気、嘔吐などの症状が出現します。

6. 検査所見、診断、鑑別診断

急性肝炎の診断

自覚症状

既述。

検査所見

肝細胞内の酵素であるALT(GPT)やAST(GOT)の著明な上昇や、黄疸の指標となるビリルビン値が上昇します。これらの数値の上昇は、広範に肝細胞障害が生じていることを示しています。

起因ウイルスの診断

各ウイルスに特異的な血液検査をおこなうことで、原因ウイルスの特定が可能となります。

  • A型:IgM-HA抗体陽性。
  • B型:IgM-HBc抗体陽性、HBs抗原陽性。
  • C型:HCV-RNA陽性、HCV抗体陽性。
  • E型:IgA-HEV抗体陽性、HEV-RNA陽性(保険適応外検査)
  • 非A非B非C非E型:IgM-HA抗体陰性、IgM-HBc抗体陰性、HCV-RNA陰性、IgA-HEV抗体陰性、抗核抗体陰性(自己免疫性肝炎の否定)、既知のウイルス感染症の否定。

重症度の診断

血液検査では、肝予備能を鋭敏に反映するプロトロンビン時間、へパプラスチン時間という血液凝固機能検査が肝障害の重症度を示します。 

また、通常の急性肝炎では意識障害を示すことはありませんが、急性肝炎が劇症化し広範な肝細胞障害が起きると、著しく肝予備能が低下するために肝臓の解毒機能が低下します。そのため、各種の中毒物質が肝臓で代謝・排泄されず、体内に貯留するために脳機能障害を起こし、昼夜逆転、せん妄、傾眠傾向、昏睡などの症状を呈します。肝予備能の低下が原因で起きる意識障害を肝性昏睡といいます。 

プロトロンビン時間と意識障害の程度で、急性肝炎は通常型、重症肝炎、劇症肝炎の3つの重症度に分類します。一度、劇症化すると高率に死に至る可能性が高くなり、肝臓移植治療が必要となります。

7. 経過と予後

急性肝炎は、その原因ウイルスにより経過と重症度が異なります。A型肝炎、E型肝炎は、一過性に経過し慢性化することはありません。B型肝炎は出産時ないし乳幼児期に感染すると高率に慢性化しますが、成人例での感染のほとんどは一過性感染で経過し慢性化することは稀です。C型肝炎は、感染時年齢に関係無く高率に慢性化します。 

急性肝炎が重症化、劇症化して死亡率する確率は、B型と非A非B非C非E型では1~2%、C型とA型では0.5%以下と考えられています。A型では死亡率そのものは低いのですが、経口感染で、家族内で2次感染を起こすなどして爆発的流行を呈する場合があります。また最近では50歳以上の高齢者での感染例での重症化例が増加しており、注意を要します。

8. 治療

急性肝炎はC型肝炎をのぞき、一過性に経過し、本来自然治癒やしやすい疾患です。急性肝炎の治療上、最も大切な観察ポイントは、極期を過ぎたか否かの見極めです。重症化、劇症化への移行が疑われた場合には、速やかに専門の病院に紹介する必要があります。 

急性肝炎の生命予後は、重症化、劇症化しなければ極めて良好であり、A型、B型肝炎は終生免疫が成立し再感染することはありませんが、C型肝炎では急性期を経過した後は、遷延化、慢性化に対して内服の抗ウイルス剤(DAA: Direct acting antivirals)を用いた抗ウイルス療法が必要となります。また、再感染することもあります。  

B型急性肝炎に関しては、日本肝臓学会によるB型肝炎治療ガイドラインに詳しく記載があります。

安静

黄疸例は、入院、安静を原則とします。臥床安静により肝血流の増加を促し、肝障害の治癒を促します。プロトロンビン時間、へパプラスチン時間の上昇、ビリルビン値の低下、自覚症状の改善が確認できれば、急性肝炎の極期が過ぎたと判断し、安静度を軽減します。

食事療法

急性肝炎の極期には食欲がなく、またこの状態での蛋白摂取は肝臓に負担を与えるため低蛋白食とし、1日60g以下の蛋白制限をおこないます。糖類を主体にカロリー補給し、1日1800kcal前後とします。

薬物治療

薬物治療としては、特に薬剤の投与が必要でない例がほとんどです。しかし急性期では、食欲不振、全身倦怠感を訴えることが多いので輸液を行うこともあります

副腎皮質ステロイド薬

副腎皮質ステロイド薬は強力な抗炎症剤、免疫抑制剤の一種です。副腎皮質ステロイド薬は肝炎ウイルスの排除機構としての免疫応答を抑制し、肝炎の遷延化を来たす可能性があるため、通常の急性肝炎では投与しません。ただし、重症肝炎、劇症肝炎への移行の可能性がある場合には、ごく早期に薬剤を投与して免疫応答を抑えることでの治療効果が期待できます。また、高度の黄疸が持続する場合にも、副腎皮質ステロイドが奏功する場合があります。しかし副作用の面からも安易に用いるべきではなく、投与開始後もできるだけ短期間の投与とします。

B型急性肝炎に対する抗ウイルス剤

B型急性肝炎の重症化例、遷延化例では、場合によって抗ウイルス剤であるラミブジンやエンテカビル、テノホビル、TAF(テノホビル アラフェナミド)を投与することもあります(保険適応外)。抗ウイルス剤の投与、中止の判断は、専門医がおこないます。

C型急性肝炎に対するIFN治療と内服の抗ウイルス剤治療

C型急性肝炎の自然経過では約50~90%の症例が遷延化、慢性化します。C型急性肝炎の慢性化防止するために、欧米では4週から8週間の内服の抗ウイルス剤(DAA: Direct acting antivirals)の投与の成績が報告されていますが保険適応外の治療法であり、わが国では発症後6か月間の経過観察をおこない慢性化を確認してから治療を開始します。 

これらの抗ウイルス剤の治療は特殊な治療法であることから、専門医の管理のもとに治療をおこないます。

9. 予防

肝炎ウイルスA、B、C、D、E型の中で、感染予防法が確立しているのは、A型とB型の2種類です。

A型肝炎の予防

アフリカ、東南アジア、中南米など熱帯、亜熱帯の国々は、A型肝炎ウイルスの流行地域と言われています。これらのA型肝炎の流行地での一般的な感染予防対策は、経口感染の機会を未然に防ぐことであり、生水、生鮮食物の摂取をできるだけ避けることが大切です。しかし食物に対する注意だけでは予防対策として不完全であることから、これらの地域に渡航する前には、A型肝炎ウイルスワクチン(HAワクチン)の投与が推奨されます。 

HAワクチン投与での感染予防効果は、ほぼ100%と言われています。HAワクチンの通常の接種方法は、初回、2~4週後、6ヶ月後の3回接種であり、3回投与で数年間はその感染予防効果が持続すると言われています。海外渡航直前など緊急性がある場合には、初回、2週後の2回接種でも十分な予防効果が得られます。

B型肝炎の予防

B型肝炎の感染予防法には、免疫グロブリン(HBIG)による予防とHBワクチンによる予防の2つに大別されます。免疫グロブリン(HBIG)による感染予防は、汚染された針刺し事故の後や、HBVキャリアの母親から出産する児に投与する場合などに限られており、B型肝炎の一般的な感染予防法はHBワクチン投与になります。HBワクチンは初回、1ヶ月後、6ヶ月後の3回接種により、接種者の約95%において予防効果が得られます。HBワクチン投与で獲得された、感染防除の指標となる蛋白であるHBs抗体は、通常3、4年間は持続陽性となりますが、その後は陰性化します。しかし仮にHBs抗体が陰性化しても、投与から15年間前後はワクチンによる感染予防は持続すると欧米から報告されています。なお、HBワクチンは全出生児を対象として2016年10月から定期接種化されました。

【参考ページ】厚生労働省:厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会) 

B型肝炎感染リスクの高い者(HBVキャリアと同居する家族、医療従事者、警察官、消防士など)では、一度はHBワクチンを投与しHBs抗体の陽性化を確認することが大切です。詳しくは、別稿の「日常生活の場での感染伝搬予防」をご覧ください。

 

文献

  1. 日本消化器病学会雑誌第120巻第5号

関連ファイル

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