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B型肝炎

1. B型肝炎ウイルスの感染

B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)が血液・体液を介して感染して起きる肝臓の病気です。HBVは感染した時期、感染したときの健康状態によって、一過性の感染に終わるもの(一過性感染)とほぼ生涯にわたり感染が継続するもの(持続感染)とに大別されます。持続感染になりやすいのは、出産時ないし乳幼児期の感染です。また、HBVの感染経路は垂直感染と水平感染に分けられます(図1)。

垂直感染
  • 出生時の母子感染
  • 母親が妊娠中に子宮内、産道で感染
水平感染
  • 濃密な接触(性行為など)
  • 静注用麻薬の乱用
  • 刺青
  • ピアスの穴あけ
  • 不衛生な器具による医療行為
  • 出血を伴うような民間療法
  • その他

図1 HBVの感染経路

2. B型肝炎の症状・経過

B型肝炎は、急性肝炎と慢性肝炎の大きく2つに分けられます。

B型急性肝炎

感染して1~6ヶ月の潜伏期間を経て、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、褐色尿、黄疸などが出現します。尿の色は 濃いウーロン茶様であり、黄疸はまず眼球結膜(目の白目の部分)が黄色くなり、その後皮膚も黄色みを帯びてきます。中には、激しい炎症による肝不全を呈し、いわゆる劇症肝炎を来すこともありますので、このような症状があれば、医療機関へ受診が必要です。一般に、劇症化に至らない場合には、数週間で肝炎は極期を過ぎ、回復過程に入ります。発症時には後述のHBs抗原、HBe抗原が陽性ですが、1-2ヶ月でHBs抗原、HBe抗原は陰性化し、その後HBc抗体、HBe抗体、HBs抗体が順次出現します。

B型慢性肝炎

出産時ないし乳幼児期においてHBVが感染すると持続感染に移行します。生後数年~十数年間は肝炎の発症はなく、感染したHBVは排除されずに患者さんの体内で共存しており、この状態を無症候性キャリアと言います。思春期を過ぎると自己の免疫力が発達し、HBVを異物(病原物質)であると認識できるようになり、白血球(リンパ球)がHBVを体内から排除しようと攻撃を始めます。この時リンパ球がHBVの感染した肝細胞も一緒に壊してしまうので肝炎が起こり始めます。一般に10~30才代に一過性に強い肝炎を起こし、HBVはHBe抗原陽性の増殖性の高いウイルスからHBe抗体陽性の比較的おとなしいウイルスに変化します。HBe抗体陽性となった後は、多くの場合そのまま生涯、強い肝炎を発症しません(非活動性キャリアと言います)。このように思春期以降、一過性の肝炎を起こした後はそのまま一生、肝機能が安定したままの人がおよそ80~90%ですが、残りの10~20%の人は慢性肝炎へと移行し、その中から肝硬変、肝がんになる人も出てきます。(図2, 図3)

HBVキャリアにおける抗原・抗体出現時期の推移

図2 HBVキャリアにおける抗原・抗体出現時期の推移

HBV持続感染者の自然経過

図3 HBV持続感染者の自然経過

3. 検査

日本肝臓学会により医師向けにB型肝炎治療ガイドラインが作成されており、15ページ「2.HBVマーカーの臨床的意義」に詳しく記載があります。

B型肝炎ウイルス検査

HBs抗原

HBVの感染を調べるには、まず血液検査でHBs抗原の有無を調べます。HBs抗原が陽性なら、100%HBVに感染していると考えられます。逆にHBs抗原が陰性なら、ほとんどの場合、HBVに感染していないと考えて差し支えありません。

HBe抗原、HBe抗体

HBs抗原が陽性ならば、次にHBe抗原、HBe抗体を調べます。一般にHBe抗原陽性、HBe抗体陰性の場合は、HBVの増殖力や肝炎の程度が強く、他の人への感染の可能性が高いと考えられます。一方でHBe抗原陰性、HBe抗体陽性の場合は、HBVの増殖力が弱く、肝炎は鎮静化し、他の人への感染の可能性が低いことが多いのですが、中にはHBe抗体が陽性になっても、肝炎が徐々に進行して肝硬変に進行したり、あるいは肝炎が進行しなくても肝がんが発生したりすることがありますので定期的な血液検査や画像検査(超音波検査やCT検査等)が必要です。

HBs抗体

B型急性肝炎を発症して治癒やした人、あるいはB型肝炎ワクチンを接種した人はHBs抗体が陽性となります。HBs抗体が陽性の人は、仮にHBVが体内に入ってきても、ウイルスは排除され、肝炎を発症することはありません。HBs抗体はいわゆる中和抗体として働きます。

HBV-DNA

HBVのウイルス量を具体的に数値化したものがHBV-DNAであり、特にインターフェロン(IFN)治療や抗ウイルス薬を使用し、その治療効果を見るときに有用です。HBV-DNA値はcopies/mL(対数表示)と表記されてきましたが、2016年から国際的に採用されているIU(国際単位)/mLとされていることから日本肝臓学会でも当面copies/mLとIU/mLと併記し、その後IU/mLへ移行することが決まりました。

ウイルス量として「4.0 copies/mL」と表示されればHBVが104個いることになります。IU/mLでは2,000 IU/mLとなります。ウイルス量が少なくなると「1.8 logcopies/mL未満」「20 IU/mL未満」「検出せず」などと、非常に低い値で表示されますが、 仮に血中ウイルス量が「検出せず」となっても、多くの場合HBVは肝臓内に存在し、決してウイルスが消失したわけではないので、この点を忘れてはいけません。

肝機能検査

AST (GOT)・ALT (GPT)

肝炎を発症しているかどうか、また生じた肝炎の程度を調べるには、AST (GOT)・ALT (GPT)の血液検査を行います。正常値は施設によって異なりますが、40-50 U/L未満が目安となります。急性肝炎、慢性肝炎の時AST・ALTは異常高値となります。AST・ALTが高ければ高いほど、肝炎の程度は強いと言えます。AST ・ALTの異常高値が長期間続くと 慢性肝炎から肝硬変へと進行します。一般にAST・ALTの数値が高ければ高いほど、肝炎を患った期間が長ければ長いほど、肝硬変になりやすいといわれていますが、B型慢性肝炎の患者さんの中には、20代の頃から、激しい急性増悪を繰り返し、比較的若い30-40才代で肝硬変に進行していることもあります。

血清ビリルビン値

急性肝炎あるいは肝硬変で肝臓の機能が著しく低下すると、黄疸が出現します。この黄疸の程度の指標になるのが、血清ビリルビン値です。正常値は1~1.5mg/dL以下で3.0mg/dL以上になると眼球結膜あるいは皮膚が黄色くなる「黄疸」が出現し始めます。

肝生検

肝炎の進展の程度を知るために、特に慢性肝炎や肝硬変の人に対して腹腔鏡あるいは腹部超音波装置(腹部エコー)を用いて肝臓の組織の一部を専用の針で採取することを肝生検といいます。特殊な染色を行い、顕微鏡で肝臓の組織を詳しく調べます。肝生検によって慢性肝炎か肝硬変か、慢性肝炎の程度は軽度か進行しているか、などが分かります。(図4)

線維化の進展

図4

4. 治療

日本肝臓学会により医師向けにB型肝炎治療ガイドラインが作成されており、23ページ「3. 治療薬」に詳しく記載があります。

B型急性肝炎

急性肝炎は一般に抗ウイルス療法は必要ありません。食欲低下などの症状があれば水分、栄養補給のために点滴などをおこないますが、 基本的には慢性肝炎の治療に使う肝庇護薬は使用せず、無治療で自然にHBVが排除されるのを待ちます。ただし急性肝炎の中でも、劇症肝炎と呼ばれる非常に強い肝炎が起こり、放置すれば命にかかわる可能性もあると予想される場合には、抗ウイルス薬として核酸アナログ製剤の投与や血液を浄化するための血漿交換、血液透析などの肝臓の機能を補助する特殊な治療を必要とする場合もあります。それでもさらに肝炎が進行する場合は、肝移植を行わないと救命できない場合もあります。

B型慢性肝炎

B型慢性肝炎の患者さんに持続感染しているHBVは身体から完全排除することは出来ないことがわかっています。C型慢性肝炎の場合にはHCVに対するインターフェロン(IFN)療法、あるいは直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の内服治療により、かなり高率にウイルスの完全排除が期待できますが、HBVに対してはIFNを用いても、後述の核酸アナログ製剤を用いても、現在の治療薬では、ウイルスの完全排除は期待できません。これがHBVに対する治療とHCVに対する治療の根本的な違いです。これをふまえて B型慢性肝炎の治療をすることになります。

HBVに対する抗ウイルス薬

IFN(注射薬)と核酸アナログ製剤(内服薬)の2剤に大きく分けられます。

IFN療法

慢性肝炎の状態にある患者さんが治療の対象になります。B型慢性肝炎に対するIFN治療は、これまではHBe抗原陽性の場合に限って、従来型IFN製剤の週3回24週間投与が保険承認されていましたが、 2011年に認可されたペグインターフェロンα2a製剤では、HBe抗原の有無にかかわらず週1回48週間投与が保険適用となっています。IFN療法が奏効すればIFN投与を中止してからも、そのままHBVは増殖せず肝炎は鎮静化します。しかしIFNの効果が不十分でHBe抗原が陰性化しない症例、IFNを中止するとHBVが再度増えて肝炎が再燃する症例も多く、IFN療法の奏効率は30-40%と言われています。

IFN療法を行うと開始当初にインフルエンザにかかったときのような38度を超える発熱・全身倦怠感・関節痛・筋肉痛は必発です。ただしこれらの副作用はIFNを継続して投与していくと徐々に落ち着き、数週後には多くの人では出現しなくなります。また白血球、赤血球、血小板の低下が起こります。これはIFNが血球を作る骨髄の働きを抑えるためです。糖尿病の人、また膠原病の人は、症状が増悪することがあります。全員ではありませんが、時に間質性肺炎という特殊な肺炎になる人もいます。間質性肺炎になると稀に命にかかわる場合がありますので、強固な空咳、胸痛などが出現した場合はすぐに胸部レントゲン写真を撮影し、間質性肺炎と診断されればIFNを中止して肺炎の治療が必要です。またIFN治療中に時にうつ病になる人がいます。うつ病がひどくなると自殺する場合があります。うつ傾向が出てきたら、すぐにIFNを中止する必要があります。また眼底出血、脱毛、タンパク尿などが出現することがあります。

核酸アナログ製剤

直接、薬の力でHBVの増殖を抑えて肝炎を鎮静化させます。薬を飲んでいる間はHBVのウイルス量は低下し、肝炎は起こりません。肝硬変で常時腹水がたまっている患者さんが、核酸アナログ製剤の長期投与で肝機能が改善し腹水が消失することもしばしばあります。しかしIFNと異なり、薬を中止するとほとんどの症例で肝炎は再燃します。一旦内服を開始してから患者さん自身の判断で核酸アナログ製剤を自己中止しますと、時に肝炎の急性増悪を起こし、 最悪の場合肝不全で死に至る場合があります。絶対に核酸アナログ製剤を自己中止してはいけません。

核酸アナログ製剤のもう一つの問題点は、薬剤耐性株(変異株)と呼ばれる核酸アナログ製剤が効かないHBVが出現することです。初期に保険承認となった核酸アナログ製剤では長期投与により3年間で半数近くの患者さんに薬剤耐性株が出現することが分かりました。なかには、耐性株が出現すると肝炎を抑えることが難しくなる症例もありました。しかし最新の核酸アナログ製剤は、薬剤耐性株の出現頻度が非常に低く、また以前の核酸アナログ製剤で耐性株が出現した場合にはもう1種類の核酸アナログ製剤を併用すれば耐性株を抑えることができることがわかり、比較的安全に核酸アナログ製剤が使用できるようになりました。

肝庇護療法

肝炎を抑える目的で肝庇護療法を行うことがあります。ウイルス量は減少しません。治療薬は内服薬のウルソデオキシコール酸と注射薬のグリチルリチン製剤が一般的です。いずれの薬剤も軽度の肝障害に対してはある程度有効ですが、B型肝炎特有の急激な肝障害の出現時(急性増悪)には肝庇護剤はあまり有効ではありません。

費用面では、IFN治療と核酸アナログ製剤治療のいずれも、医療費助成制度によって1又は2万円の自己負担で治療を受けることができます。詳しくは、お住まいの都道府県の担当窓口又はお近くの保健所にお問い合わせください。

5. 予防(母子感染予防対策・ワクチン接種など)

現在、我が国で行われているHBVに対する感染予防は、HBV持続感染している母親からの出産時の感染予防対策のためのHBV免疫グロブリンとワクチン接種の組あわせによる予防と、医療従事者など希望者に対するワクチン接種による予防です。

HBV母子感染予防対策事業

本邦では1986年に開始されました。HBV持続感染している母親から産道感染で新生児にHBVが感染するので、当初は出産時と生後2ヶ月にHBV免疫グロブリンを、生後2、3、5ヶ月でHBワクチン接種を行うことになっていましたが、2013年10月から早期接種方式(国際方式)へ変更されています。これは、出生後できるだけ早い時期(12時間以内が望ましいとされています)にHBV免疫グロブリン1mlを筋肉内投与、HBワクチン0.25mlを皮下注射し、さらに、HBワクチン0.25mlを1か月後、6か月後に2回追加接種するスケジュールです。母親がHBe抗原陽性キャリアの場合、旧方式では生後2ヵ月目にもHBV免疫グロブリンを追加投与していましたが、新方式では省略可とされています。

医療従事者などに対するワクチン接種

(1)初回(2)初回投与1ヶ月後(3)初回投与6ヶ月後にHBワクチンを接種します。

B型肝炎感染リスクの高い者(HBVキャリアと同居する家族、医療従事者、警察官、消防士など)、では、一度はHBワクチンを投与しHBs抗体の陽性化を確認することが大切です。詳しくは、別稿の「日常生活の場での感染伝搬予防」をご覧ください。

定期接種についての動き

我が国では、1986年から開始されていた従来からの母子感染予防対策事業によって新規のHBV母子感染をほとんど防げるようになりました。しかしながら、依然として、ピアスの穴開けやタトゥー(刺青)、性行為等による水平感染や、ワクチン接種を受けていない乳幼児の水平感染の事例が報告されています。2016年10月からは、B型肝炎ワクチンが定期接種化されることになりました。