肝臓専門医以外の医療従事者の方へ

急性肝炎

 

1.急性肝炎とは

 急性肝炎とは、主に肝炎ウイルスが原因でおこる急性のび慢性疾患で、黄疸、食欲不振、嘔気嘔吐,全身倦怠感、発熱などの症状を呈する。肝炎ウイルスとしては、A,B,C,D,E型の5種類が確認されている。急性肝炎の予後は一般に良好だが、急性肝炎患者の約1-2%の患者は劇症化し、一度劇症化すると高率に死亡する。

2.急性肝炎の発生頻度

 1995年以後のわが国の急性肝炎の起因ウイルス別発症頻度は、A型,B型,nonABC型がそれぞれ約30%、C型が約10%で推移している。D型急性肝炎は、その診断そのものが困難で正確な感染状況は把握されていないがHBVと共存した形でしかウイルスが存在しえないこと、感染者そのものが少ないことから、日本では極めて稀と考えられる。E型肝炎は、従来日本には存在しないと考えられていたが、2000年頃から北海道を中心とするE型肝炎急性肝炎例の集団発生、流行が問題となっている。

3.感染経路

 A,E型は経口感染であり汚染された水、食物を介して感染する。B,C,D,型は経血液感染であり、輸血や汚染血液が付着した針による刺入などにより感染が成立する。覚せい剤、刺青、男性のピアスなどの行為は、B型、C型肝炎の感染のハイリスクとみなされる。わが国では1990年頃までは輸血によるB型、C型急性肝炎が見られたが、それ以後は、日赤の血液スクリーニング体制が強化され、現在では輸血後急性肝炎は根絶状態に近い。20歳台から50歳台成人のB型急性肝炎の感染経路として性交渉は重要な感染経路と考えられるが、C型ではHIVや他のSTDなどとの重複感染例でない限り夫婦間でも感染することはまずないと考えられている。

4.潜伏期

 肝炎ウイルスが体内に侵入してから症状が出現するまでの潜伏期は、3週間から8週間の範囲であることが多いも、B型、C型では6ヶ月間の潜伏期を有する場合がある。また肝炎ウイルスに感染するも自覚症状を有さず不顕性で経過する例も少なくない。

5.臨床所見、症状

  1. 前駆症状(発熱、咽頭痛、頭痛などの感冒様症状)
  2. 黄疸、褐色尿
  3. 食欲不振
  4. 全身倦怠感
  5. 嘔気、嘔吐
  6. 腹痛
  7. その他(関節痛、発疹)

 急性肝炎の前駆症状は、いわゆる感冒様症状(発熱、咽頭痛、頭痛)であり、病初期はしばしば感冒と診断され感冒薬を処方されている例が多い。この時点での急性肝炎の診断は困難である。肝障害が生じていることを示す特異的症状は黄疸であるが、通常、球結膜、皮膚の黄染が出現する数日前から褐色尿が観察される。褐色尿とは、ウーロン茶のような色をした尿であり、黄疸の進行とともにコカコーラのような色へと色が黒く変化する。黄疸出現と同時期に食欲不振、全身倦怠感、嘔気、嘔吐などの症状が出現する。

6.検査所見、診断、鑑別診断

6-1.急性肝炎の診断

自覚症状:
既述。
検査所見:
広範に肝細胞障害が生じていることを示すALT(GPT),AST(GOT)の著明な上昇、ビリルビン値の上昇。

6-2.起因ウイルスの診断

A型:
IgMHA抗体陽性。
B型:
IgMHBc抗体陽性、HBs抗原陽性。
C型:
HCV-RNA陽性、HCV抗体陽性。
NonABC型:
IgMHA抗体陰性、IgMHBc抗体陰性、HCV-RNA陰性、抗核抗体陰性(自己免疫性肝炎の否定)、既知のウイルス感染症の否定。

6-3.重症度の診断

6-3-1:プロトロンビン時間、へパプラスチン時間

 肝予備能を鋭敏に反映するこれらの血液凝固機能検査は急性肝炎の重症度を把握する上で重要である。一般的に黄疸の程度が高度な例ほど急性肝炎は重症であると理解されているが、病初期には黄疸の程度と重症度は必ずしも一致しない。重症肝炎、劇症肝炎では、黄疸がピークに達する前にプロトロンビン時間、へパプラスチン時間の低下が先行する。

6-3-2:意識障害の程度

 通常の急性肝炎では意識障害は出現しない。急性肝炎が劇症化し広範な肝細胞障害により著しく肝臓予備能が低下すると肝臓の解毒機能も低下する。各種中毒物質が肝臓で代謝排泄されず、体内に貯留して脳機能障害を起こすことで、昼夜逆転、譫妄、傾眠傾向、昏睡など意識障害を生じる。肝予備能の低下が原因で起きる意識障害を肝性昏睡といい、1度から5度までの段階がある。肝性昏睡を呈する患者の血中アンモニア濃度は高く、患者の口臭ないし病室内にはアンモニア臭(甘すっぱい不快臭)がする。

6-3-3:急性肝炎の重症度分類(通常型、重症肝炎、劇症肝炎)

 プロトロンビン時間と意識障害の程度の程度で、急性肝炎は通常型、重症肝炎、劇症肝炎の3つの重症度分類をおこなう。プロトロンビン時間40%以下の値を呈した症例を重症肝炎、それに加えて意識障害の程度が肝性脳症2度以上を呈した症例を劇症肝炎、プロトロンビン時間40%以上で意識障害をともなわない症例を通常型と区分する。

7.経過と予後

 急性肝炎は、その原因ウイルスにより経過と重症度が異なる。A型肝炎、E型肝炎は、一過性に経過し慢性化することはない。B型肝炎は新生児、小児期に感染すると高率に慢性化するも、成人例での感染は原則一過性感染で経過し慢性化することは稀である。C型肝炎は、感染時年齢に関係無く高率に慢性化する。

 急性肝炎が重症化、劇症化して死亡率する確率は、B型とNon-ABC型では1-2%、C型とA型では0.5%以下と考えられている。A型では死亡率そのものは低いも、経口感染で、家族内で2次感染を起こすなどして爆発的流行を呈する場合がある。急性肝炎としての発生数が多く、また最近50歳以上の高齢者での感染例での重症化例が増加しており、注意を要する。

8.治療

 急性肝炎はC型肝炎をのぞき、一過性に経過し、本来自然治癒しやすい疾患である。急性肝炎の治療上最も大切な観察ポイントは、極期を過ぎたか否か見極めることである。重症化、劇症化の移行の可能性を常に留意しながら注意深く観察し対処することが必要である。重症化、劇症化への移行が疑われた場合には、速やかに専門の病院に紹介する。急性肝炎の生命予後は、重症化、劇症化しなければ極めて良好で、A型、B型肝炎は終生免疫が成立し再感染することはないが、C型肝炎では急性期を経過した後は、遷延化、慢性化に対する対策が必要である。

8-1.安静

 黄疸例は、入院、安静を原則とする。臥床安静により肝血流の増加を促し、肝障害の治癒を促す。プロトロンビン時間、へパプラスチン時間の上昇、ビリルビン値の低下、自覚症状の改善が確認できれば、急性肝炎の極期が過ぎたと判断し、安静度を軽減する。

8-2.食事療法

 急性肝炎の極期には食欲がなく、またこの状態での蛋白摂取は肝臓に負担を与えるため低蛋白食とし、1日60g以下の蛋白制限をおこなう。糖類を主体にカロリー補給し、1日1800kcal前後を与える。

8-3.薬物治療

 薬物治療としては、特に薬剤の投与が必要でない例が多い。しかし急性期では、食欲不振、全身倦怠感を訴えることが多いので補液の投与をおこなう。

8-3-1. 副腎皮質ステロイド

 副腎皮質ステロイドは、肝炎ウイルスの排除機構としての免疫応答を抑制し、肝炎の遷延化を来たす可能性があるため、原則投与しない。ただし重症肝炎、劇症肝炎への移行の可能性がある場合、ごく早期に免疫応答抑制をおこなうことで効果が期待される。また、胆汁うっ滞型の急性肝炎および自己免疫性肝炎急性発症型(早期診断が困難)では副腎皮質ステロドが著効を示す。しかし副作用の面からも安易に用いるべきではなく、投与開始後もできるだけ短期間の投与とする。

8-3-2.B型急性肝炎に対する抗ウイルス剤

 B型急性肝炎の重症化例、遷延化例では、抗ウイルス剤であるラミブジンやエンテカビルを投与する。抗ウイルス剤の中止は、肝機能が正常化し、HBs抗原の消失、HBV-DNAの消失を確認した後におこなう。

8-3-3.C型急性肝炎に対するIFN治療

 C型急性肝炎の自然経過では約50-90%の症例が遷延化慢性化する為、急性期を経過した後のALT値が2峰性ないし多峰性を示し慢性化が予想された時点でインターフェロン(IFN)を2カ月-6カ月間投与する。リバビリンを併用せずともIFN単独治療で約90%の例で遷延化が防止され治癒が期待される。IFN投与時の注意事項は慢性肝炎の場合と同じでインフルエンザ様症状はほぼ100%出現するため、解熱鎮痛剤の投与で副作用の軽減をはかる。うつ病、間質性肺炎など生命に重篤な影響を及ぼす副作用は、出現頻度として少ないものの問診、診察などで早期発見を心がける。

表1.急性ウイルス肝炎各型の特徴
A型肝炎 B型肝炎 C型肝炎 D型肝炎 E型肝炎
起因ウイルスと大きさ HAV,27-30nm HBV,42nm HCV,60nm HDV,37nm HEV,34nm
ウイルスの特徴 RNA,7.5kb,
linear,ss,+鎖
DNA,3.2kb
circular,ss/ds
RNA,10kb
linear,ss,+鎖
RNA,1.7kb
circular,ss,-鎖
RNA,7.6kb
linear,ss,+鎖
感染様式 経口(便) 経皮(血液)
母児感染
経皮(血液)
母児感染
経皮(血液)
母児感染
経口(便)
潜伏期 2-6週 1〜6か月 1〜3か月 1〜6か月 3-9週
好発年齢 60歳以下 青年 青,壮年 青年 不定
流行発生 あり なし なし なし あり
感染形態 急性 急性,慢性 急性,慢性 急性,慢性 急性
肝細胞癌 なし あり あり あり なし
劇症肝炎 まれ あり まれ あり あり
予防 HAワクチン
ヒト免疫グロブリン
HBVワクチン
HBs抗体含有ヒト免疫グロブリン(HBIG)
なし HBVワクチン なし

9.ウイルス別の臨床的特徴

9-1.A型肝炎

9-1-1.A型肝炎の感染経路

 A型肝炎ウイルス(HAV)は、ピコルナウイルスに属し、エンテロウイルス72型とも呼ばれている。主な感染経路は経口感染で、肝臓で増殖したウイルスが胆汁、腸管より便中に排出され、これらの排泄物がなんらかの経路で口より侵入し感染が成立する。よって主な感染媒体は汚染された水及び食べ物である。

 わが国では貝類(生牡蠣)の生食後の感染事例が多いも、国外ではレタス、グリーンオニオンなど生鮮野菜や冷凍イチゴなど輸入生食材が感染源となった集団発生例が報告されている。また家族内での感染事例が多いこともA型肝炎の特徴である。A型肝炎はかつて冬から春にかけて多発するなど季節性が見られたが、最近では冷凍食品の普及、食物の流通システムの変更を反映からか夏の感染事例も珍しくなく、従来のほどの季節性がなくなっている。

9-1-2.A型肝炎の症状、診断

 A型肝炎の臨床症状は、いわゆる風邪症状、38度以上の発熱を前駆症状として発症し、食欲不振、倦怠感などの非特異症状出現後、黄疸を呈する。A型肝炎例での37.5度以上の発熱の頻度は約70%で、B型、C型での頻度の20%に比して頻度は高いも、発熱以外では他のウイルス性急性肝炎と比し特異症状は少ない。若年成人A型肝炎感染者での劇症肝炎移行は、他の肝炎に比して頻度は少なく軽症例が多いが、50歳以上の高齢者では腎不全や心不全などの重篤な合併症を併発する例が少なくないことが最近問題となっている。またA型肝炎は一度感染すると再度の感染は起こさない終生免疫が成立する疾患である。

 血液検査では、ALT(GPT),AST(GOT)の著明な上昇、ビリルビン値の上昇以外に、TTTの上昇がA型肝炎の特徴で、これは血液中のIgMの増加を反映している。

 A型肝炎の診断に関しては、HAVは経口感染性であることから貝類の生食等の病歴聴取は重要である。血清学的診断としてはIgM型HA抗体の測定が有用である。IgM型HA抗体は発症後、1週間目から出現し(60〜70%)、3-4週間目に抗体価が最高値となり、以後次第に低下する。(図1)

図1 A型急性肝炎の臨床経過、ウィルスマーカーの推移

9-1-3.A型肝炎流行の変遷

 我が国のA型肝炎既感染者の年齢分布をみると高齢者で高率、若年者では低いHAV抗体陽性率を示しており年齢依存性である。1945年以前(第二次世界大戦前)の出生者は100%に近いHA抗体陽性率を示すも、それ以後に出生した者でのHA抗体陽性率は10%に満たない。これは、過去に本ウイルスは日本に常在するも衛生環境の改善とともに劇的にA型肝炎ウイルス感染の発生が激減した為と考えられる。一方、アフリカ、東南アジア、中南米など熱帯、亜熱帯の国々は、HAVの高侵淫地域として知られ、10歳前後の小児において90%前後のHA抗体陽性率を示している。HAVの高侵淫地域旅行後のA型肝炎発症事例も少なくないことから、急性肝炎の診断では海外渡航の有無の問診も重要である。

9-1-4.A型肝炎の予防

 HAV高侵淫地区におけるHAV感染の一般的予防対策は、経口感染の機会を未然に防ぐことであり、生水、生鮮食物の摂取をできるだけさけることが重要である。しかし食物に対する注意だけでは予防対策として不完全であるため、HA抗体非保有者は、HAワクチンの投与をおこなう。HAワクチン接種者の抗体陽転率は、ほぼ100%であり、極めて良好な成績が得られている。HAワクチンの接種方法は、初回、2—4週後、6ヶ月後の3回接種で数年間持続する抗体価を得ることが可能だが、海外渡航前など緊急性がある場合には、初回、2週後の2回接種で十分な予防効果が得られる。

9-2.B型肝炎

9-2-1.B型肝炎とは

 B型肝炎は、その感染様式により一般感染、いわゆる一過性感染と母子感染による持続感染に分かれる。一過性感染は急性肝炎として発症し、ごく一部劇症肝炎として死亡する例がみられる。しかし大多数例では一過 性感染としてその後治癒し終生免疫が成立する。これに反し、HBs抗原キャリアーでHBe抗原陽性の母親より出生した児では90%以上の確率で持続感染へ移行し、慢性肝炎、肝硬変、肝癌への推移の可能性を有する重大な感染となる。

9-2-2.B型肝炎の疫学

 世界におけるHBVキャリアーの分布は、欧米では人口の0.1%前後にすぎないのに対し、アジア、アフリカ諸国では3-10%と高率である。ちなみに我国の妊婦におけるHBVキャリアー率は0.9%でこれらの国々の中間に位置する。わが国のHBVキャリアーの総数は約130万人程度と推定されている。

9-2-3.B型肝炎の感染経路

 B型肝炎ウイルスは、肝細胞で増殖し血液を循環することより血液が感染源となる。輸血、医療事故による針汚染以外に性交渉による感染で高頻度にB型肝炎感染が成立する。HBe抗原陽性患者からの針刺し事故による感染率は約30%と言われている。

9-2-4. HBV遺伝子型

 最近、HBVの種類には、AタイプからHタイプにHBV遺伝子型に分類されることが明らかとなった。わが国のHBVキャリアーのHBV遺伝子型分布は、Aタイプ1.7%、Bタイプ12%、Cタイプ85%と報告されているが、B型急性肝炎でのAタイプの頻度は30%前後とHBVキャリアーとは異なる分布を示している。Aタイプは本来、欧米やアフリカのHBVキャリアーに広くみられるHBV遺伝子型でわが国には本来存在しないタイプであるが、輸入感染症として欧米から持ち込まれ性交渉の感染経路によって2000年前後から急速にわが国に広がりつつある。AタイプのB型急性肝炎例では成人でも10%前後が慢性化すると言われて注意を要する。

9-2-5.B型急性肝炎の症状

 B型急性肝炎固有の臨床症状はなく、他の急性肝炎と同じである。小児のB型急性肝炎で全身の皮疹を伴う例がありGianotti(ジアノッティ)病と呼ばれている。

9-2-6.B型急性肝炎の診断、ウイルスマーカー

 B型急性肝炎では潜伏期間中にHBs抗原、HBe抗原,HBV-DNAなどが検出される。肝炎発症前からIgG型HBc抗体は陽性化する。肝炎の発症、ALT(GPT),AST(GOT)の上昇とともにIgM型HBc抗体が血液中に出現し、平均6ヶ月間持続陽性化する。典型例ではALT(GPT),AST(GOT)の低下とともに、経過中にHBe抗原が陰性化しHBe抗体陽性となる。HBs抗原の消失の確認はB型急性肝炎のウイルス学的治癒を判定する重要な検査項目であり臨床症状が安定した場合でも必ず確認をおこなう。HBs抗原が肝炎発症後6ヶ月間以上持続陽性の場合には、慢性化と判断する。

 B型急性肝炎の早期診断にはHBs抗原、IgM型HBc抗体の検出が有用であるが、初診時には、すでにHBs抗原が消失ないしHBs抗体が陽転化(重症型に多い)したB型急性肝炎例も10%前後存在することから、HBs抗原陰性であってもB型急性肝炎は否定できず、B型急性肝炎の診断ではIgM型HBc抗体検査を省略してはいけない。またIgM型HBc抗体の測定はHBVキャリアーの急性発症(抗体値低値)と急性B型肝炎(抗体値高値)との鑑別に有用とされているが鑑別に苦慮する症例も散見され、臨床経過の追跡、総合判断が必要とする場合も少なくない。(図2)

図2 B型急性肝炎の臨床経過とウィルスマーカーの推移

9-2-7.B型急性肝炎とHBV遺伝子変異

 B型急性肝炎の重症度と、HBV遺伝子のPreCore領域(nt1896)とCorePromoter(nt1762,nt1764)の遺伝子変異とは密接な関係がみられ、HBV遺伝子型BタイプとCタイプのB型急性肝炎では、これらの領域に変異がある場合には、ない場合に比較して5-6倍、劇症化、重症化しやすいことが明らかとなっている。

9-2-8.B型肝炎の予防

 B型肝炎はA型肝炎と同様に終生免疫が成立する疾患であり、HBs抗体陽性者、HBc抗体陽性者が再度、感染することはない。よってこれらの抗体陰性者が、HBV感染予防対象者となる。積極的なHBV感染予防法は、受動免疫によるHBIGの投与と能動免疫によるHBワクチンの投与のふたつである。HBIG,HBワクチンの使い分けは、期待しうる予防効果出現までの時間による。つまり、HBウイルスの感染の機会を受けた場合は速やかHBIGを投与し、ウイルスが肝臓で増殖する前に中和排除させる。しかしHBIGは受動免疫法である為、その効果は一過性であり、数ヶ月しか持続しない。

一方、HBワクチンは、個体の免疫応答を刺激し、HBs抗体を産生させ能動免疫状態とし、HBウイルス感染を防御する方法である。HBワクチンは初回、1ヶ月後、6ヶ月後の3回接種により、接種者の約95%において予防効果が得られる。HBワクチンにより得られたHBs抗体は、通常3、4年間は持続陽性となるが、仮にHBs抗体が陰性化してもワクチンによる能動免疫は、終生リンパ球レベルで持続することが予想される。欧米では、HBワクチンを3回接種し抗体陽性となった者では、HBs抗体が陰性化しても追加接種は必要ないとする意見が多いが、わが国では追加接種の必要性については一定のコンセンサスが得られていない。少なくともHBV感染リスクの高い者では、一度はHBワクチンを投与しHBs抗体を陽性化させる必要がある。

9-3.C型肝炎

9-3-1. C型肝炎の感染経路

 わが国の一般血液供血者におけるHCV抗体陽性率は1-2%で、わが国には約150万人から200万人のHCVキャリアーが存在すると言われている。C型肝炎の感染経路に関して、輸血などの血液を介して感染が成立することは明確となったが、輸血以外の感染経路に関しては明かでない。母子感染あるいは性交渉による感染はB型肝炎ほど頻度が高くなく、感染成立に要するウイルス量が血中でB型肝炎ウイルスほど多くないと考えられている。HCV汚染針事故での感染の確率は約3%である。現在わが国の輸血後C型肝炎の発生状況は、日赤でのHCV抗体とPCR法によるHCV-RNA測定(NAT)の二重チェックでHCV汚染血液の混入を防ぐ方法が確立しており、わが国の輸血後C型肝炎は根絶したと言ってよい。

9-3-2. C型肝炎の慢性化

 C型肝炎は、B型肝炎と異なり、どの時期に感染しても容易に遷延化、慢性化する。C型慢性肝炎は、長期間、極軽度の炎症が持続し、十数年を経過した後次第に急速に活動性が強くなり、肝硬変さらに肝癌へと進展する。我国の肝癌の約80%はC型肝炎ウイルス感染に関連すると考えられている。

9-3-3. C型急性肝炎の診断

 C型急性肝炎の診断は、血液中のHCV抗体とHCV-RNAの組み合わせでおこなう。C型急性肝炎ではHCV抗体の出現は発症後数ヶ月と遅れることがあり、抗体診断単独ではC型急性肝炎の診断を見落とす可能性があることから、C型肝炎感染か否かの判断は、血液中のHCV-RNA検出でおこなう。一方、HCV抗体陽性例でトランスアミナーゼの上昇が認めた場合には、C型急性肝炎例とC型慢性肝炎の急性増悪例との鑑別、すなわち初感染か持続感染かの鑑別が問題となる。C型慢性肝炎の急性増悪の場合には、HCV抗体力価は高力価であるのに対し、C型急性肝炎例の場合にはHCV抗体は陰性か抗体力価が低く、経過とともにHCV抗体力価が上昇することから、抗体価の推移も加味してC型急性肝炎と診断する。

一方、発症して6ヶ月以上経過したC型急性肝炎例ではHCV抗体力価が高値を示すこともあり、その時点での血液検査だけではC型急性肝炎例とC型慢性肝炎の急性増悪例との鑑別が困難であり、発症前のHCV抗体陰性を確認できない例ではC型急性肝炎と診断できないことがある。急性期に採血された血液を用いてHCV抗体とHCV-RNAを同時に測定することで、C型急性肝炎か否かを明確にすることが可能となる。

9-3-4. C型肝炎の予防

 C型肝炎の予防法としては、ワクチン開発の研究は進行中であるが実用化には至っていない。よってB型肝炎ワクチンのような積極予防対策が存在しない為、感染源との接触をさけて感染を未然に防ぐことが重要である。

9-4.D型肝炎

9-4-1.D型肝炎とは

 D型肝炎ウイルス(HDV)は、HBウイルスをヘルパーウイルスとして増殖する特異な肝炎ウイルスである。HDVの増殖にはHBVの補助が必要な為、必ずHDVウイルスキャリアーはHBs抗原陽性でなければならない。欧米に比して我国ではHDVによるD型肝炎は低頻度であり、HBs抗原陽性者の0.6%と報告されている。HDV感染と肝炎の重症化、劇症化との関係が欧米では報告されており、HDV感染の臨床的特徴と考えられている。HDV感染は、HBV感染との共存でしか存在せず、HBVキャリアーへの重感染あるいは急性肝炎としてのHBV、HDVの同時感染しかありえない。

9-4-2.D型肝炎の診断

 D型肝炎の診断は臨床所見のみからでは他のウイルス肝炎との鑑別は困難でHDVの血清動態を十分理解した上での血清マーカー測定が重要である。通常、同時感染(coinfection)ならびに重複感染(Superinfection)とも血清HBs抗原陽性、anti-HD陽性であるがD型肝炎急性期においては同時感染ではIgM型anti-HBc陽性・anti-HBc陰性または低力価陽性であり、血清anti-HDは発症早期には低力価である。一方、重複感染では血清IgM型anti-HBc陰性・anti-HBc高力価陽性であり、血清anti-HDは発症早期から高力価となる傾向にある。またHDVのゲノムであるHDV-RNAの検出は早期診断に有用である。

9-4-3.D型肝炎の予防

 D型肝炎感染の予防は、ウイルスの感染様式、増殖様式から、HBV感染予防対策に含まれる。

9-5.E型肝炎

9-5-1.E型肝炎とは

 インド、ミャンマーなどで水系に発生する伝染性肝炎の報告がなされ、E型肝炎と命名された。E型肝炎ウイルスはRNAウイルスで、アカゲザルなどの感染実験で感染成立することができ、胆汁または糞便中よりウイルス様粒子の検出がなされている。日本では2000年以後、北海道、東北を中心とした東日本に40歳から60歳の男性を中心にE型肝炎感染例が多発し注目されるようになった。

9-5-2.E型肝炎の感染経路

 従来、熱帯、亜熱帯地域でのE型肝炎は、ウイルスが混入した糞便に汚染された飲料水を摂取することにより感染すると考えられてきた。しかし、わが国では、本ウイルスに汚染された豚、猪、鹿などの食肉を十分な加熱処理を行わずに経口摂取したことで感染が成立した事例が報告され、E型肝炎は人畜共通感染症として再認識されるようになった。

9-5-3.E型肝炎の症状、経過

 E型肝炎の一般的臨床像はA型肝炎と近似し一過性感染のみで慢性化することはないが、重症化の頻度が高く、E型肝炎の死亡率は1-2%で、特に妊婦の死亡率は10-20%に達する。

9-5-4.E型肝炎の診断

 E型肝炎の診断はHEV抗体(IgM型は急性期の診断、IgG型は既往の感染)とHEV-RNAの検出でおこなう。(図3)

図3 E型急性肝炎の臨床経過とウィルスマーカーの推移

9-5-5.E型肝炎の予防

 E型肝炎は、元々感染力が低く、飲料水などとともに大量に暴露されない限り、感染することはないと考えられている。一般的予防法としてはA型肝炎と同様、E型肝炎の流行地では生水とそれを含む食物を摂取しない、E型肝炎感染の可能性のある食肉は十分な加熱処理をおこなうなどの心がけが重要である。

 E型肝炎の予防法としては、ワクチン開発の研究は進行中であるが実用化には至っていないことから、感染源との接触をさけて感染を未然に防ぐことが重要である。