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肝硬変

総 論

1. 成因

 わが国では肝炎ウイルスによるものが多く、約70%がHCV感染で約20%がHBV感染によるものである。さらにアルコールが5%〜10%、その他の原因としては胆汁うっ滞(原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、胆道閉鎖症)、自己免疫性肝炎、ヘモクロマトーシス、Wilson病、肝静脈・下大静脈閉塞によるBudd-Chiari症候群などがある。

肝硬変の成因

2. 病態と重症度

  • 肝臓におけるびまん性の線維増生と再生結節の形成により肝小葉が改築された状態である。あらゆる慢性肝疾患の終末像である。
  • 症例数は全国で40〜50万人前後と推計されている。肝硬変単独の死者数は年間17,000人で、性別では70%が男性である。
  • 肝線維化は、Disse腔に存在する星細胞が関与する。星細胞は通常はビタミンAを貯蔵しているが、ウイルスやアルコールなどによる肝障害のため星細胞は活性化し、細胞外マトリックスを産生する。I型、III型コラーゲン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸といった細胞外マトリックスの産生が過剰となり、線維性瘢痕が形成される。進行するとDisse腔にもこれらのマトリックスが沈着し、類洞に血流障害が生じる。更に肝障害が進み、肝小葉が改築されると肝硬変に至る。

3. 診断

  • 肝硬変を診断する際には、健診などによる肝障害の指摘の有無、アルコール摂取歴、家族歴で肝疾患の有無などを聴取することが重要である。
  • 自覚症状は代償期の肝硬変ではほとんどないことが多い。非代償期へと進行すると全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、微熱、腹部膨満、下肢のこむら返り、味覚異常、吐血、黒色便などがみられる。
  • 身体所見としては、昼夜逆転、見当識障害、行動異常、羽ばたき振戦などの肝性脳症に伴う精神神経症状や眼瞼結膜貧血、眼球結膜黄疸、皮膚の暗褐色調の変化、黄染、紫斑(出血傾向)、くも状血管腫(首や前胸部) 、肝腫大(辺縁鈍、進行すると萎縮)、肝右葉萎縮、脾腫、腹壁静脈拡張、腹部膨満、腹水貯留(波動の触知)、腸雑音の低下(麻痺性イレウス)、臍ヘルニアなどが認められる。皮下脂肪や筋肉の減少、女性化乳房、手掌紅斑、浮腫、発熱、肝性口臭、睾丸萎縮、爪の乳白色化、ばち指・チアノ−ゼ・起座位で増悪し坐位で改善する呼吸困難などの所見が見られる。
肝硬変に伴う症状

4. 血液検査所見

 肝炎ウイルスマーカー(HBs抗原 ,HBc抗体 , HCV抗体 ) 、抗核抗体 , 抗ミトコンドリア抗体 , IgG, IgMを検査する。 各種合成能低下(Alb , PT, ChE , T-Chol)を肝予備能の評価として検査する。
ビリルビン上昇(直接型優位、肝不全では間接型が増加)、網内系の反応(TTT , ZTT上昇, γ-グロブリン上昇)、線維化マーカーの上昇(Ⅳ型コラーゲン、ヒアルロン酸の上昇)など。

  • 血中半減期はアルブミン(Alb) は15〜22日間と長いが、プロトロンビン時間(PT%)の規定因子の一つである第Ⅶ因子は数時間と短いため、その合成低下が起こると半日でもPT%は低下する。従って、直近の肝合成能を検査するためにはPT%が適している。
  • 肝逸脱酵素の血中半減期はAST 11〜15時間、ALT 41時間でALTのほうが長い。
  • 血液ガスpO2<80mmHgまたはA-aDO2>15mmHgでは、肝肺症候群を考え、肺血流シンチを追加する。起立によるSpO2の低下は本症に特徴的である。呼吸機能検査では拡散能が低下する。
慢性肝炎と肝硬変の判別式(A)

A=0.124×γグロブリン(%)+0.001×ヒアルロン酸(μg/L)+(-0.413)×性別(男=1,女=2)+(-0.075)×血小板数(万/μL)-2.005
判定Aが−なら慢性肝炎、Aが+なら肝硬変と判定。正診率91.2%

  • 画像診断法として、肝硬変として最も簡便な診断法は超音波検査である。
  • 腹部超音波:エコーで肝表面の凹凸不整、肝辺縁の鈍化、右葉萎縮、左葉腫大、肝実質エコーレベルの不均一化、肝内脈管の狭小化および不明瞭化、門脈、脾静脈の拡張、脾腫、側副血行路、腹腔内リンパ節の腫大、腹水などを検索する。
  • 造影CTスキャン:腹部超音波では肝全体をくまなく観察することが困難な場合がある。肝硬変の重要な合併症の肝細胞癌の早期診断のため、腹部超音波以外に造影CTを年1回は施行する。
  • 腹部造影MRI:ヨード造影剤アレルギーや腎機能低下例では造影MRIを行う。目的によって造影剤を選択すれば異なる疾患の診断が行える。
  • 腹腔鏡:最も確実な形態学的診断法は、腹腔鏡による肝表面の肉眼的観察である。半球状ないしは球状に隆起した結節とその周囲の結合組織からなる凹凸を肝表面を観察することで診断できる。
  • 肝生検:肝生検は肝硬変と慢性肝炎との鑑別を行ううえで重要であるが、肝生検組織は肝臓全体からみると5万分の1程度であり、サンプルエラーの可能性が懸念されている。また、正確な診断には検体の大きさが20mm×1.4mm必要である。
  • 食道・胃静脈瘤の診断には、上部消化管内視鏡が有用である。
  • 非侵襲的に肝線維化を評価する新しい手法としてフィブロスキャン(FibroScan)が開発された。フィブロスキャンは、パルス振動波の組織内伝播速度を超音波画像解析法により測定するものである。肝臓の硬度が弾性値kPa(キロパスカル)として定量的に数値化され、F0では5kPa以下、F1で7kPa、F2で13kPa、F3で18kPa、F4で22kPaと、肝組織の線維化が進行するに従い測定値が上昇することが知られている。

5. 肝硬変の形態分類

● 形態学的には、長与、三宅、WHO分類などが用いられる。また、機能的には代償期(肝機能が保たれている時期)と非代償期(肝機能が低下し、腹水、黄疸、脳症、出血傾向などの重篤な症状が出現する時期)とに分類される。

肝硬変の病理学的分類
長与・三宅の甲型 長与・三宅の乙型 アルコール性
(三宅のF型)
原因 ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害 慢性アルコール中毒、栄養障害
前硬変状態 亜急性肝萎縮 肝線維症 繊維化を伴う脂肪肝
結節と間質の性状 大〜小の
不ぞろいな結節、
広間質性
中〜大結節性、
薄間質性
小結節性(肝小葉の分割による)
薄間質性
頻度 1 7 2
肝細胞癌合併 少ない 多い 稀ではない
Gall分類 壊死後性 肝炎後性 栄養性
  • B型肝硬変では幅の狭い線維性隔壁によって隔てられた、径数ミリから1cm前後(平均7mm前後)の大きな再生結節を有し、C型肝硬変では、不規則で幅の広い線維性隔壁で隔てられた、3mm程度の不正形で小さい再生結節を有する。
  • B型肝硬変ではseroconversion後に肝炎が消退し、肝細胞が活発に再生した結果、大きな再生結節を形成する一方で、C型肝硬変では活動性炎症が持続し、種々の程度の肝実質の切り崩しやリンパ濾胞形成を伴い肝細胞の再生が制限され不整形で小さい再生結節となるといわれている。よって、B型肝炎でもseroconversionを伴わず活動性炎症が持続する場合は再生結節は小さくなる。

6. 重症度分類

 臨床的には、重症度分類としてChild-Pugh scoreが汎用される(表1)。

表1 Child-Pugh score
判定基準 1 2 3
アルブミン (g/dl) 3.5超 2.8以上3.5未満 2.8未満
ビリルビン (mg/dl) 2.0未満 2.0以上3.0以下 3.0超
(原発性胆汁性肝硬変の場合) (4.0未満) (4.0以上10以下) (10超)
腹水 なし 軽度
コントロール可能
中等度以上
コントロール困難
肝性脳症(度) なし 1〜2 3〜4
プロトロンビン時間 (秒、延長) 4未満 4以上6以下 6超
(%) 70超 40以上70以下 40未満

上記5項目のscoreを合計して判定する。

  • 肝硬変では合併症の有無が大きく予後を左右する。1970年代では、肝硬変の死因は肝不全、消化管出血、肝細胞癌が1/3ずつを占めていたが、最近では肝硬変患者の死因は約70%が肝癌で、20%が肝不全、消化管出血は10%以下である。これには内視鏡的治療技術の進歩、残存肝機能維持療法の進歩や新規薬剤の開発が大きく寄与していると考えられる。
  • C型肝硬変では年間7%、B型肝硬変では年間3%に発癌が見られる。
  • 末期肝硬変に対して肝移植を行うようになり、そのような例には予後予測としてmodel for endstage liver disease(MELD)スコアが有用である。
肝移植のための評価(MELDスコア)

MELDスコア=3.78×loge(T-Bil mg/dl)+11.2×loge(PT-INR)+9.57×loge(Cre mg/dl)+6.43 (アルコール性肝疾患または胆汁うっ滞性肝疾患では×0、他の全ての肝疾患では×1)

各論 〜肝硬変の合併症の病態と診断〜

1. 門脈圧亢進と腹水

● 腹腔内には内蔵相互の摩擦を少なくし、消化管の運動を円滑にするために少量(約100ml) の漿液が存在しているが、体液流入と吸収の不均衡により、腹腔内に生理的な量を超えて病的に液体が貯留した状態が腹水である。

● 腹水の発現には種々の因子が関与する。心拍出量、循環血液量は増加するが、多くは皮膚、筋肉、諸臓器における動静脈吻合部に奪われ、有効循環血液量はむしろ減少する。これが交感神経系、レニン−アンギオテンシン系、抗利尿ホルモン(ADH)などを介して、腎血流量低下、尿細管でのNa・水再吸収亢進の原因になると考えられる。また肝硬変による肝静脈枝、肝内門脈枝の圧迫の結果類洞内静水圧、門脈圧が上昇し、肝静脈枝・肝内門脈末梢枝の透過性亢進を招き、低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧の低下と相まって腹水発現につながる。

● 腹水の発現機序:腹水発現機序をめぐるunderfilling説では、肝硬変の進行とともに肝静脈枝、肝内門脈枝の圧迫がみられ、肝静脈流出障害が起こり、類洞内静水圧の上昇、肝リンパ生成の増加をまねく。リンパ生成量がリンパ管系への流入量を上回ると、余剰分が腹水として貯留する。この結果、有効循環血液量が減少し、これが神経・体液性因子を介して尿細管でのNaならびに水貯留に働く、とする説である。Overflow説では、腎でのNa・水再吸収が亢進して循環血液量が増加し、肝静脈流出障害と相まって増加した血漿が腹水としてあふれ出るとしており、肝内圧の上昇によりhepatoglomerular reflexがNa・水再吸収亢進の刺激になるとされる。第3の説である末梢動脈拡張説では、末梢血管拡張により、循環血液量と全身の血管床との不均衡が生じた結果、有効循環血液量が相対的に減少し、これが左心室、動脈弓、頸動脈洞、腎輸入細動脈などの圧受容体を刺激し、神経体液性因子の代償反応(腎でのNa・水の貯留)を惹起するとしている。

肝硬変での腹水貯留の機序

(1)腹水の診断

  • 腹水貯留時には患者は腹部膨満感を訴え、腹囲、体重が増加する。多量の腹水では波動(fluctuation)を認め、少量の腹水では体位の変換により濁音と鼓音の境界が移動する体位変換現象(shifting dullness)を認める。肥満、鼓腸や巨大腹部腫瘤、卵巣嚢腫などとの鑑別が可能となる。
  • 腹部超音波検査では、100mlの腹水もecho-free spaceとして確認することができる。Morison窩やDouglas窩、脾周囲腔、右肝下部、特に右傍結腸溝などで認める。
  • 腹水をみた場合に試験穿刺を行うが、補正不能な血液凝固障害、腸閉塞、腸壁感染症では禁忌であり、穿刺部が手術瘢痕である場合、腹壁に著しく発達した側副血行路が存在する場合、患者の協力が得られない場合は相対的禁忌となる。
  • 腹水を試験穿刺を行い、性状、pH、総蛋白、アルブミン、細胞数(赤血球数、好中球数、リンパ球数)算定、一般細菌培養、細胞診などを検査する。肝癌など腫瘍が疑われる場合は腹水中LDHや腫瘍マーカーも測定する。
  • 腹水は多くの場合淡黄色透明である。一般に、混濁が見られれば感染を疑い、血性の場合は癌性腹水や肝癌破裂、結核性腹水を考え、乳び性の場合には癌のリンパ節転移やリンパ腫を鑑別する。
  • 検査結果を見て、漏出性か滲出性を区別する。腹水蛋白濃度が2.5 g/dl以下なら漏出液、4.0 g/dl以上なら滲出液であるが、血清と腹水のアルブミン濃度差が1.1 g/dl以上であれば漏出液、それ未満であれば滲出液とする基準がより信頼性が高いとされる。
  • Rivalta反応は酢酸により沈降する蛋白体(蛋白—酸性多糖類複合物)の有無をみる検査で、陽性は滲出液を陰性は漏出液を意味する。結核性腹膜炎では腹水中のADA(adenosine deaminase)が高値で、悪性中皮腫では腹水中のヒアルロン酸が高値となり、それぞれ原因不明の炎症性腹水の診断に有用である。
  • 細菌培養を行う場合、細菌検査はカルチャーボトルに、生化学検査にはフィブリンの析出を防ぐため、穿刺液10mlにつき2.5%クエン酸Na 1mlを加え冷蔵保存する。細胞診用にはヘパリンやEDTA-2Naなどの抗凝固剤を入れた容器に採取する。
  • 肝硬変による腹水では特発性細菌性腹膜炎を合併することがある。発熱、腹痛、腹部圧痛および反跳痛などの顕性症状の頻度は約半数に過ぎないので、診断には穿刺液の細菌培養と好中球数算定が必須である。
  • 腹水の細菌検査にあたっては、ベッドサイドで腹水を直接カルチャーボトルに入れる方法が検出感度と簡便性の点で推奨される。細菌培養が陰性であっても、腹水中の好中球が500/mm3以上、または好中球数が250-500/mm3以上の場合でも自他覚所見を伴えばSBPと診断される。さらに、腹水中乳酸値(33mg/dl以上)、腹水pHの差(0.07以上あるいは0.10以上)なども補助診断として有用とされている。
  • 腹部単純X線:腹部全体のX線透過性低下、肝下縁消失(hepatic angle sign)、肝側縁徴候(肝右葉の辺縁の一部が描出)、側腹線条徴候(背臥位で見られやすい)、dog’s ear sign(100〜150mlから認められる)。
  • 腹部エコー:境界鮮明な無エコー帯として描出される。100ml程度の腹水から描出可能とされる。Morison窩やDouglas窩、脾周囲腔、右肝下部、特に右傍結腸溝などのecho free spaceに注意する。遠肝性側副血行路が肝の周囲に認められる。
  • 腹部CT:腹水の状態を立体的に捉えやすい利点がある。胃静脈-腎静脈短絡路(G-R shunt)、脾静脈-腎静脈短絡路(S-R shunt)、食道・胃静脈瘤が認められる。
  • 胃内視鏡所見:食道・胃静脈瘤や門脈圧亢進性胃症(PHG)が認められる。

(2)腹水の治療

①安静臥床・Na,飲水の制限

 浮腫や腹水の治療原則は安静と塩分制限と利尿薬を中心とする薬物療法である。極端な塩分制限により食欲低下が問題となるだけでなく、利尿剤投与に伴う腎障害や低Na血症の率を増加させるため、塩分は1日5g前後に制限する。

 Na 130mEq/L以下の低Na血症では希釈性低Na血症が考えられ、水分は1日1,000ml以下に制限する。

②薬物療法

 肝硬変では二次性アルドステロン症を呈することが多く、Na貯留,K喪失傾向を認めることが多い。利尿薬の第一選択はK保持性利尿薬の抗アルドステロン薬である。本邦では、スピロノラクトン(アルダクトンA)50〜150mgの投与が一般的である。効果発現には3〜4日を要する。効果不十分な時はフロセミド(ラシックス)20〜80mgを併用する。

③アルブミン製剤投与

 低アルブミン血症が高度時(2.5g/dl以下)では利尿剤への反応性が乏しく,血漿蛋白製剤の投与が必要である. アルブミン静注は血漿膠質浸透圧を上昇させ,有効循環血漿量を増加させ,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の抑制効果を呈する. 通常,20〜25%アルブミン1日100mlを3日間投与し,血清アルブミン値3.0g/dlを目標とする。

④腹水穿刺排液

 大量の腹水穿刺排液は低血圧、腎不全、肝性脳症などを誘発する危険があるとされ、1回の排液量は症例ごとに慎重に決定すべきであり、2 L程度の排液から漸増していくのが望ましい。一方で、アルブミン静注投与下に腹水が完全に消失するまで頻回に腹水排液を行うことにより、全身循環動態、肝・腎機能、生存率に悪影響を及ぼさず、利尿薬投与例に比べて入院期間が短縮し、肝性脳症、腎障害、電解質異常などの合併症の率が有意に低率となる。また、約5L/日の腹水穿刺排液単独群とアルブミン投与併用群で数年以上の経過を追った比較臨床試験では、腹水穿刺排液単独群で合併症は30%、アルブミン投与併用群で合併症は16%との報告がある。合併症の内訳としては、腹水穿刺後の循環血液量の低下による腎機能障害と低Na血症および著明な血中レニン、アルドステロン値の上昇が多く認められた。安全のため、腹水穿刺排液を行う際には、利尿剤は一時的に適宜減量、あるいは休薬する必要がある。

⑤腹水濾過濃縮再静注法

 安全性に優れ,効果は腹水全量排液アルブミン静注法と同等で、長期観察時の生存率、大量腹水再発率に差はみられない。アルブミンの需要を節減できるメリットもある。しかし、腹水エンドトキシンの濃縮という問題があるため、特発性細菌性腹膜炎が少しでも疑われる症例では禁忌である。一過性の血小板減少、フィブリノーゲンの減少、発熱などをみることがあり、静注に変わる方法として濾過濃縮腹水の腹腔内投与も試みられている。

⑥腹腔‐静脈シャント:Peritoneo-Venous shunt (Le Veen shunt,Denver shunt)

 Le Veen shuntとDenver shuntが一般に知られている。Le Veen shuntは、逆流防止弁が付いており、自動的に腹水を頸静脈に注入する。しかし、腹膜炎、敗血症、心不全などの致死的な合併症が高頻度に出現し、シャント閉塞も起こりやすいことから、改良型としてポンプ機能を有するDenver Peritoneo-Venous shuntが開発され、手技も比較的簡便となり現在繁用されている。Denver PV shunt術により、腹水の軽減、腎血流量増加、尿量の増加、利尿剤に対する反応性の改善が得られる。有効例では、一週間前後で飲水制限を解除でき、肝不全用経腸栄養剤の投与が可能になる。食事量も増えるため,経口BCAA製剤の単独投与でもAlb値の改善が得られる。腹腔-静脈シャント術後に残存した腹水に関しては,腹帯を用いて腹壁圧を高めることで改善が得られる。一般に肝機能が比較的保持されている例(血清総ビリルビン10 mg/dl以下、プロトロンビン時間40%以上)や肝性脳症、消化管出血を伴わない例に有効例が多く、約半数に難治性腹水の改善がみられるが、合併症の問題もあり、現在のところ患者の長期予後を改善させるものではない。

⑦経頸静脈肝内門脈大循環短絡術:Transjugular intrahepatic portosystemic shunt(TIPS)

 一般に、月に3回以上の大量腹水穿刺排液を要する症例や、肝性胸水を有する症例でTIPSの適応を検討する。TIPS群と大量腹水穿刺排液群を比較した4つのRCTにおいて、難治性腹水のコントロールが長期的に可能であった症例は腹水穿刺排液群で8〜19%であったのに対し、TIPS群は23〜58%と優れていた。肝性胸水に関しては、TIPS施行により70%で改善が得られたとの報告がある。しかし、TIPS施行後の長期予後は必ずしも良くなく、大量腹水穿刺排液群と同等である。また、合併症として約30%に肝性脳症がみられ、シャントの狭窄や閉塞は1年で70%にみられる。近年、閉塞しにくい改良型のステントが登場しており、効果が期待される。その他、肝不全の進行、hyperdynamic stateの増悪、肺血管抵抗の増加などが問題となっている。一般に、右心不全、腎不全(クレアチニン3.3 mg/dl以上)、肝不全 (ビリルビン5.8mg/dl以上)、肝性脳症、敗血症、重度の多発性肝嚢胞症例では禁忌であり、肝腫瘍併存例や門脈血栓例は相対的禁忌と考えられ、施行にあたっては慎重な肝予備能、腎機能、心機能、呼吸機能の評価が必要である。

まとめ

 腹水治療では、Na・飲水の制限、利尿剤投与を行う。必要に応じて、アルブミン製剤投与や腹水穿刺排液を追加する。効果不良例では、専門施設に紹介し腹水濾過濃縮再静注、腹腔−静脈短絡術、経頸静脈肝内門脈大循環短絡術を検討する。 

肝硬変に伴う腹水の治療
1.安静臥床・Na(水)の制限
塩分は1日5g前後に制限,低Na血症では水分は1日1,000ml以下に制限
2.薬物療法
スピロノラクトン(アルダクトンA) 50〜150mgの投与
     ↓
フロセミド(ラシックス) 20〜80mg併用
3.アルブミン製剤投与
低アルブミン血症が高度時(2.5g/dl以下)に20〜25%アルブミン100ml/日div、3日間
4.腹水穿刺排液
大量腹水穿刺排液(〜5L)+アルブミン製剤投与(50〜100ml).(利尿剤の減量または中止)
腹部膨満や呼吸困難の改善を目的とする時は,1日1,000mlを限度に排液を行う.
5.腹水濃縮再静注法
6.腹腔鎖骨下静脈シャント術 (Le Veen shunt,Denver shunt)
7.経頸静脈肝内門脈大循環短絡術:Transjugular intrahepatic portosystemic shunt(TIPS)

2. 食道静脈瘤

(1)内視鏡診断

食道静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症研究会,1991)

判定因子 記号 細分
1. 占拠部位
location
L:Ls 上部食道まで認める静脈瘤
Lm 中部食道に及ぶ静脈瘤
Li 下部食道に限局した静脈瘤
Lg 胃静脈瘤Lg-cとLg-fに細分する
Lg-c:噴門部に近接する静脈瘤
Lg-f:噴門輪よりはなれて孤在する静脈瘤
2. 形態
form
F:F0 静脈瘤として認められないもの
F1 直線的な細い静脈瘤
F2 連珠状の中等度の静脈瘤
7F3 結節状あるいは腫瘤状の太い静脈瘤
1. 基本色調
color
C:Cw 白色静脈瘤
Cb 青色静脈瘤
附記事項 血栓化静脈瘤はCw-Th,Cb-Thと附記する
2. 発赤所見
red color sign
RC 発赤所見とは,ミミズ腫れ様所見(red wale marking:RWM),cherry red spot様所見(cherry-red spot:CRS),血マメ様所見(hemato-cystic spot:HCS)の3つを指す. F0でもRC signがあれば記載する.
RC(−) 発赤所見を全く認めないもの
RC(+) 限局性に少数認めるもの
RC(++) (+)と(+++)の間
RC(+++) 全周性に多数認めるもの
附記事項 telangiectasia(TE)があれば附記する
3. 出血所見
bleeding
sign
出血中の所見 噴出性出血(spurting bleeding)
にじみ出る出血(oozing bleeding)
止血後の所見 赤色栓(red plug)
白色栓(white plug)
4. 粘膜所見
mucosal
finding
E びらん(erosion:E)
Ul 潰瘍(ulcer:Ul)
S 瘢痕(scar:S)
の3つに分類し,(+),(−)で表現する

(2)食道胃静脈瘤の治療

 肝硬変に伴う門脈圧亢進症によって食道粘膜下に側副血行路が発達したものが、食道静脈瘤である。突然の大量消化管出血の原因となり、高度肝障害例では出血により肝不全をきたし致命的となる。食道静脈瘤破裂を未然に防ぐためには、定期的内視鏡検査による食道静脈瘤の評価が重要である。食道胃静脈瘤の治療方針は緊急治療、待期的治療に分けて考える。

①Sengstaken-Blakemore(SB)チューブ

 食道胃静脈瘤の緊急出血例に適応がある。通常、緊急内視鏡が行えないか、有効な止血が得られない時に使用する。

②内視鏡治療
A) EVL(Endoscopic variceal ligation) 内視鏡的静脈瘤結紮術
a) 緊急出血時
食道静脈瘤に対するEVLは硬化剤を使用しないので、肝予備能や腎機能が把握できない緊急例では良い適応と考えられる。また、X線透視も必要なく、手技や準備も比較的簡便である。更に、結紮できれば、止血効果は十分であり、深夜の緊急内視鏡時の一時止血法の第一選択であると考えられる。当科では、緊急出血時には出血点にのみEVLを施行し、待期的治療を追加している。
b) 待期的治療
EVL単独療法は、供血路が残存するため短期再発が多い。このため、肝予備能が悪い例や、腎障害を伴う例、門脈—肺静脈吻合などによるEIS施行困難例では待期的EVL単独療法の適応としている。EVLで静脈瘤の消失を得た後に、APC(argonplasma coagulation)またはレーザーによる地固め療法を追加する。
B) EIS(Endoscopic injection sclerotherapy) 内視鏡的食道静脈瘤硬化療法
a) 緊急出血時
再発例で食道壁が硬い等の理由でEVL施行困難な際には、緊急EISが有用である。内視鏡的に5%ethanolamine oleate iopamidol(5%EoI)を静脈瘤内に注入(intravariceal injection:IVI)するEO法を行ったり、1%polidocanol(1%AS: aethoxysklerol)を静脈瘤近傍に局注(paravariceal injection:PVI)するAS法を追加したりするものである。5%EoIの注入量は最大0.4 ml/kgまでとする。また、胃静脈瘤破裂に対してはcyanoacrylate(Histoacryl)の注入が行われる。
b) 待期的治療
静脈瘤および供血路の消失を目標として、現在、食道静脈瘤に対する内視鏡治療の第1選択としてEISが行われているが、高度の黄疸(T-Bil≧4 mg/dl)、低アルブミン血症(2.5 g/dl以下)、血小板2万/μl以下、出血傾向(DIC)、大量腹水貯留、高度肝性脳症、腎不全、心不全などを有する例ではEIS禁忌である。入院期間の短縮、必要とするEoI量の減少を期待してEISL(endoscopic injection sclerotherapy with ligationも行われている。可能な限りEO法を繰り返し、食道静脈瘤と供血路(左胃静脈、後胃静脈、短胃静脈)を血栓化した後に、AS法で残存細血管や血栓化静脈瘤を脱落させ、静脈瘤の完全消失を図る。また、APCまたはレーザーによる地固め法も良好な再発予防効果を有することから、施設によってはAPCやレーザーの追加を行っている。
③薬物療法
A) 緊急出血時

バソプレッシン(ピトレシン): S-B tubeでの圧迫止血時に併用する。ECG、血圧、脈拍のモニターが必要である。高度肝障害や腎障害、心疾患合併がなければ、0.1〜0.2単位/minより開始し、止血が得られなければ0.9単位/minまで増量できる。ピトレシン2.5A (2.5ml, 50u)+5%Glu500mlを時間60mlでdivすると0.1u/minとなる。中心静脈より投与し、点滴開始10分前後から門脈圧は低下し始め、10数分後には約30%低下し、点滴中は維持される。冠動脈攣縮、腎不全などの副作用に注意を要し、止血が得られれば中止を検討する。

B) 待期的治療(門脈圧低下療法)

a) βブロッカー(塩酸プロプラノロール:インデラル®,ナドロール:ナデック®):安静時心拍数が投与前の25%減あるいは55/分以下を目標値として投与する。1回10mgを1日3回程度より開始し、血圧、脈拍をモニターしつつ1回20mgを1日3回程度まで増量する。合併症として低血圧、徐脈、心不全、気管支喘息、頭痛、紅潮などの副作用に注意を要する。

b) 一硝酸イソソルビド(アイトロール®):βブロッカーとの併用で有効とされている。1回20mgを1日2回まで徐々に増量する。副作用のために投与を中止しなければならない率は2剤併用で15%、プロプラノロール単独で2%との報告があり、2剤併用群で合併症が多く、現時点ではこの治療は実験的段階であり、更なる検討が必要と思われる。

c) 利尿薬(アルダクトンA®,ソルダクトン®,その他):門脈圧降下作用を有するが、予防的投与が主体である。

d) アンギオテンシン受容体拮抗薬 (Losartan:ニューロタン®):最近,β—ブロッカーを対照としたRCTで有用性が示された。特に、腹水を伴わない患者やアルコール性肝硬変患者での効果に優れる。

④外科治療
A) 直達手術

 肝機能良好例(Child-Pugh分類Grade A〜B)が対象となる。食道離断術とHassab手術がある。食道離断術は、傍食道および胃上部の広範な血行遮断を行うことができ、脾臓摘出も行うため、脾機能亢進症を伴う高度の食道静脈瘤に対しても有効であるが、手術に耐えられる肝予備能を有することが必要である。特発性門脈圧亢進症や肝外門脈閉塞症などが良い適応である。Hassab手術は食道離断をせず、開腹して血行遮断と脾臓摘出のみ行うものである。食道静脈瘤に対する効果は他治療に劣るものの、手術侵襲が比較的軽く、胃静脈瘤に対してほぼ100%の治療効果があり、脾機能亢進症の改善も期待できることから、内視鏡治療やIVR治療が困難な孤立性胃静脈瘤症例に対して行われることが多い。

B) シャント手術

 門脈圧を低下させる目的で、門脈大静脈短絡路を形成する手術である。以前は門脈下大静脈短絡術が行われていたが術後肝性脳症の問題があり、現在では遠位脾腎短絡術が一部の施設で行われている。

⑤IVR治療
A)バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術 (Balloon-occuluded retrograde transvenous obliteration;B-RTO)/ 経頸静脈的胃静脈瘤塞栓術 (Transjugular retrograde obliteration for gastric varices:TJO)

 孤立性胃静脈瘤でF2以上、RCサイン陽性あるいはびらんがあり、出血の既往といったリスクを有する症例で、胃腎シャントを有する症例に待期・予防的に行われる。大腿静脈アプローチのB-RTOと頸静脈アプローチのTJOがある。左腎静脈から逆行性に胃腎シャントにバルーン付きカテーテルを進め、胃腎シャントをバルーン閉塞し、心嚢静脈や横隔膜下静脈などの排血路をコイルや50%ブドウ糖液や純エタノールを用いて処理した後、5%EoIを逆行性に胃静脈瘤に注入する。

3. 肝性脳症

概念:
肝性脳症は重篤な肝障害が原因で生ずる意識障害を中心とする精神神経症状である。
病態:
腸管内で生じるアンモニアなどの神経毒性物質が、肝不全のため解毒されなかったり、門脈大循環シャントのために直接大循環に流入し、血液脳関門を越え脳内に入ることで、肝性脳症を呈する。神経毒性物質としては、主に腸内細菌によって産生されるアンモニア、低級脂肪酸、メルカプタンがある。
  • アンモニアは通常、肝臓で尿素サイクルにより処理されるが、肝不全患者では処理能が低下する。また、筋肉ではグルタミン酸からグルタミンを生成する過程でアンモニアが処理されるが、肝硬変では栄養障害による筋肉の萎縮がみられ、筋肉での処理能力も低下している。また、分岐鎖アミノ酸( バリン、ロイシン、イソロイシン)は筋肉でのアンモニア代謝に利用され低下し、芳香族アミノ酸は肝臓での処理能の低下により上昇する。Fischer比(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸 モル比)あるいはBTR(分岐鎖アミノ酸/チロシンモル比)の低下がみられる。これらのアミノ酸バランスの異常は重症度の進行とともに顕著になる。増加した芳香族アミノ酸は脳内モノアミン(神経伝達物質)の代謝異常を引き起こしたり、偽性神経伝達物質であるフェニルエタノールアミンやオクトパミンを合成し、正常のシナプス伝達を阻害する。
  • 分岐鎖アミノ酸量と血性亜鉛濃度は正の相関を示す。肝臓の線維化の過程でマグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、銅、カルシウムなどの金属がさまざまな形で関与している。亜鉛は肝線維化に対しては抑制的に、逆に銅はリジルオキシダーゼのco-factorであることから肝線維に対して促進的に作用する可能性が考えられる。肝硬変では肝組織中の亜鉛濃度の低下と銅濃度の増加がみられ、亜鉛欠乏が肝線維化と関係する可能性が検討されている。
  • また、慢性肝不全による肝性脳症には、増悪因子が関与していることが多い。その除去のみで改善が期待できる。食道静脈瘤出血、胃潰瘍、門脈圧亢進性胃症などの消化管出血があればその治療を行う。便秘も腸管からの中毒性物質の吸収により脳症を誘発するのでラクツロースなどで1日2回程度の軟便となるようにコントロールする。
  • 腹水などによる利尿剤の過量投与も、BUN上昇や、アルカローシスによる腎でのアンモニア生成と脳内へのアンモニア移行の促進を介して肝性脳症を悪化させるので注意する。
  • 向精神薬も肝性脳症の誘因となる。特に、barbiturateやbenzodiazepineはGABA/BZ受容体/Cl-チャンネル複合体を介し、GABA作動性抑制性神経伝達を活性化して脳症を誘発する可能性がある。その他、低血糖、低酸素血症、貧血、低血圧なども増悪因子となるので注意が必要である。
分類:
肝性脳症には精神神経症状が明らかである顕性脳症と、精神神経症状が明らかではなく、臨床的には肝性脳症とは認められないが、肝硬変に鋭敏で定量的な精神神経機能検査を行うことで精神神経機能の異常が指摘される潜在性肝性脳症とがある。
  • 顕性脳症は、臨床経過や脳症の発症様式などにより急性型、慢性型、および特殊型に分類される。急性型は劇症肝炎に、慢性型は側副血行路の発達した肝硬変に代表されるが、慢性型は門脈‐大循環短絡の要因が強いタイプ(慢性再発型) と肝細胞障害の要因が強いタイプ(末期型) に分けられる。特殊型の頻度は少ないが、先天性尿素サイクル酵素異常症であるシトルリン血症などがある。
  • 欧米を中心として新しい肝性脳症分類が作成されている。

新しい肝性脳症の分類

A型(Acute)
急性肝不全(劇症肝炎など)でみられる脳症
B型(Bypass)
門脈—大循環短絡による脳症で肝硬変などの肝疾患を伴わない
C型(Cirrhosis)
肝硬変と門脈圧亢進症/門脈—大循環短絡で見られる脳症         
  • エピソード(間歇)型脳症
  • 持続型脳症
  • ミニマル脳症(従来の潜在性肝性脳症)

(Ferenci et al. Hepatology 35:716-721,2002)

診断にあたっては、重症肝疾患の既往、羽ばたき振戦や失見当識などの精神神経症状、肝性口臭とよばれる独特のアンモニア臭や高アンモニア血症、脳波異常などが参考になる。近赤外線トポグラフィーによる脳機能測定も有用である。脳症の重症度については、犬山シンポジウムの昏睡度分類が一般に用いられる。

肝性脳症の昏睡度分類

 
昏睡度精神症状参考事項
I 睡眠-覚醒リズムの逆転
多幸気分、時に抑うつ状態
だらしなく、気にとめない状態
Retrospectiveにしか判定できない場合が多い
II 指南力(時、場所)障害、物を取り違える(confusion)。
異常行動(例:お金をまく、化粧品をゴミ箱に捨てるなど)
時に傾眠状態(普通の呼びかけで開眼し会話ができる)
無礼な言動があったりするが、医師の指示に従う態度をみせる
興奮状態がない
尿便失禁がない
羽ばたき振戦あり
III しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度を見せる。傾眠傾向(ほとんど眠っている)
外的刺激で開眼しうるが、医師の指示に従わない、または従えない(簡単な命令には応じる)
羽ばたき振戦あり(患者の協力が得られる場合)
指南力は高度に障害
IV 昏睡(完全な意識の消失)
痛み刺激に反応する
刺激に対して払いのける動作、顔をしかめるなどが見られる
V 深昏睡
痛み刺激にも全く反応しない

(第12回犬山シンポジウム,1982一部改変)

  • 潜在性肝性脳症は、顕性肝性脳症の既往のない肝硬変患者の30〜84%に合併する。実生活、特に車の運転の安全性において注目され、また、肝不全患者の肝移植のタイミングを決定するうえでもその意義は大きい。治療を必要とするため、minimal encephalopathyと呼ばれるようになってきている。
  • 潜在性肝性脳症の診断方法にはVienna Test Systemがあるが、検査に1.5〜2時間かかるのが難点である。Connにより報告されたnumber connection testが簡便で汎用される。その他、Reitan trailmaking test A、積木検査(block design test)、符号検査(digit symbol modality test)などがある。加藤らはこれらの検査を組み合わせ、タッチパネルを用い、15〜20分程度で施行可能な肝性脳症のコンピューター診断ソフトとしてNeurophysiological tests(NP test)を開発した。日本肝臓学会に申し込むとCD ROMを入手できる。
  • 近赤外線トポグラフィー(NIRS)を用いて簡便に脳機能測定を行い、数分の測定で肝性脳症の診断を可能とする試みがなされている。
  • 現在、minimal encephalopathyに対する確立された診断方法はなく、簡便かつ信頼性の高い国際的に共通する診断方法の開発が望まれる。
肝性脳症の治療
A.経口摂取不能時
①中心静脈栄養:高カロリー輸液用基本液25〜35 kcal/kg/日に各種ビタミン,微量元素追加.
 肝不全用特殊組成アミノ酸輸液製剤:アミノレバン500ml+50%ブドウ糖40mlを2〜3時間かけて1〜2回点滴静注.
②難消化性二糖類(ラクツロース,ラクチトール)注腸
B.経口摂取がある程度確保されている場合
①低蛋白食:発症数日は0.5 g/kg/日,その後漸次1.0〜1.5 g/kg/日に増量
②便通対策(+消化管清浄化):難消化性二糖類(ラクツロース30〜90mlなど).
③消化管清浄化:腸管非吸収性抗生物質
 (カナマイシン2〜4g/day,ポリミキシンB300〜600万単位/dayなど)
④特殊アミノ酸製剤の投与:アミノレバンEN(50g)2P2×または3P3×,ヘパンED(80g)2P2×など

4. 肝不全・黄疸

概念:
肝不全とは重篤な肝疾患に伴う高度の肝機能低下により、黄疸、腹水、肝性脳症、出血傾向など多彩な臨床症状を生ずる状態をいう。その経過から急性および慢性肝不全に分類される。慢性肝不全は非代償性肝硬変が代表疾患であり、肝不全症候、蛋白エネルギー低栄養状態とともに、肝癌や胃食道静脈瘤を併発することが予後を規定している。
分類:
慢性肝不全の病態には門脈・大循環系の異常が大きく関与している。すなわち、本来肝で解毒されるべき種々の中毒物質が、門脈系と下大静脈系との間に生ずる短絡(門脈大循環短絡portal systemic shunt)のため直接大循環に流入することである。さらに肝細胞機能低下のため中毒物質の肝での代謝障害が加わり、中毒物質が直接脳に作用して異常行動などの精神神経症状をきたし、最終的に昏睡に至るものである。また、これに加えて肝細胞機能の低下により、正常の脳の機能を営むために必要な物質(肝性因子)の低下が肝不全の病因として重要と考えられている。
黄疸:
肝細胞内では、ビリルビンはリガンジンと呼ばれる細胞内結合蛋白により、小胞体に輸送され、ここでグルクロン酸抱合され、水溶性の抱合型ビリルビンとなる。抱合型ビリルビンは、再度リガンジンと結合し毛細胆管側の肝細胞膜に到達し、膜上に存在するmultidrug resistance-associated protein 2 (MPR2)によりATP依存性に毛細胆管へと能動輸送される。肝硬変では、肝細胞のビリルビン代謝の全てが障害されるが、一般に、MRP2によるビリルビンの毛細胆間腔(胆汁中)への排泄が律速段階で最も障害されやすい。その際には抱合型ビリルビンは血液中に排泄され、血中の直接ビリルビンがまず上昇する。更に肝硬変が進行すると、抱合能の障害やシャントにより間接ビリルビンも上昇してくる。肝機能の低下は、直接型ビリルビン/総ビリルビン比で反映される。

5. 肝硬変に対する治療

日常生活指導(表1)

 従来、肝硬変患者に対して食後30〜60分間の安静臥床が推奨されてきた。その根拠として、立位での肝血流量が臥位と比較し2/3程度まで減少することと、歩行時には更に肝血流が減少することがあげられる。しかし、その後、運動により肝血流量が減少しても肝酸素消費量は一定に維持されることが報告されたことから、むしろ安静による骨格筋量の減少の結果、筋によるアンモニア処理能などの、低下した肝機能の代償機能を反って損ねることが危惧されている。現在では、肝硬変患者に厳重に安静を強いる必要はないと考えられており、重症度に応じて、患者の作業量を規制している。

表1 肝硬変患者に対する日常生活指導の原則
  • ①代償期では,できるだけ日常生活を規制しないように指導する.
  • ②代償期では,仕事内容は,デスクワークを中心とし,肉体労働や夜間長時間勤務は禁止する.
  • ③代償期では,翌日に疲れを残さない程度の軽い運動は,体力維持・QOLの維持に有用である.
  • ④非代償期では,重症度に応じて,安静を指示する.
  • ⑤非代償期では,腹水,脳症などに影響を与えない程度の仕事は許可する.
  • ⑥非代償期では,サウナや,熱い風呂に長時間つかることは注意する.
  • ⑦非代償期では,ゴルフなどの運動は門脈圧を上昇させ,食道静脈瘤の破裂の危険があり注意する.

食事療法(表2)

 肝硬変では30〜70%に蛋白エネルギー低栄養状態(protein-energy malnutrition:PEM)を認めるといわれる。PEMは肝硬変患者の重要な予後因子である。また、肝硬変の栄養代謝異常はエネルギー代謝および糖質、脂質、蛋白質、アミノ酸代謝だけでなく、ビタミン、ミネラル、微量元素などにも及ぶ。慢性肝不全患者の栄養管理は良質の蛋白質やビタミン、ミネラルを含む栄養バランスのとれた食事の経口摂取が原則である。輸液療法は肝性脳症や腹水治療を目的に行われる。1997年のESPEN(欧州静脈経腸栄養学会)のガイドラインによれば、代償性肝硬変では非蛋白熱量として25〜35 kcal/kg/日、蛋白1.0〜1.2g/kg/日としている。Ⅰ〜Ⅱ度の肝性脳症や蛋白不耐症を呈する場合は、一時的に蛋白0.5 g/kg/日に制限しBCAA高含有の肝不全用経腸栄養剤を用いた窒素源補給を行い、2〜3日後の早期に蛋白1.0〜1.5 g/kg/日に戻していく。Ⅲ〜Ⅳ度の肝性脳症では非蛋白熱量として25〜35 kcal/kg/日、蛋白0.5〜1.2 g/kg/日とし、特殊組成アミノ酸輸液を投与する。肝不全食のみの長期投与は窒素出納が負となり、栄養状態が改善しないことから、血中アンモニア値などを参考に漸次摂取蛋白を増やしていく。

表2 肝硬変患者に対する食事療法の原則
① 蛋白・カロリー
代償期:エネルギー25〜35 kcal/kg/日,蛋白(1.0〜1.2 g/kg)の摂取を心がける.
非代償期:
食事摂取不良による低栄養:エネルギー35〜40 kcal/kg/日,蛋白1.5 g/kg/日.
肝性昏睡(Ⅰ〜Ⅱ度):エネルギー25〜35 kcal/kg/日,一時的に蛋白0.5 g/kg/日とし,漸次1.0〜1.5 g/kg/日を補充.
肝性昏睡(Ⅲ〜Ⅳ度):エネルギー25〜35 kcal/kg/日,蛋白0.5〜1.2 g/kg/日,BCAA高含有アミノ酸輸液の投与.
②食塩・水分
代償期では7g以下/日
非代償期では5g以下/日
血清Na値が130 mEq/l以下では,水分摂取量を1日1L以下に制限する.
③ アルコール
酒類は禁酒とする. 特に,食道静脈瘤・消化性潰瘍を有する患者は,禁酒を厳守.

BCAA(branched-chain amino acid:分岐鎖アミノ酸製剤)投与

 肝硬変において、蛋白低栄養状態の指標としてAlb値の低下、Fischer比(分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸 モル比)、もしくはBTR(分岐鎖アミノ酸/チロシン モル比)の低下があげられる。蛋白低栄養状態に対しては経口分岐鎖アミノ酸製剤の投与を行う。

 イタリアから,174名の非代償期肝硬変に対してBCAAを1年間投与した無作為化比較臨床試験(RCT)において、腹水・肝性脳症などの臨床症状の改善、入院回数の減少、入院日数の短縮、QOLの改善、死亡率の低下などの効果があったとの報告があった。本邦においても、646例の肝硬変患者に対して、BCAAを2年以上投与したRCTが行われた。解析可能であった622例(食事治療群308例、BCAA顆粒投与群314例)について検討した結果、BCAA顆粒投与群で肝不全病態悪化(腹水、浮腫、肝性脳症、黄疸)、食道胃静脈瘤破裂、肝癌発生および死亡などのイベント発生率が有意に抑制されていたとの結果が得られた。BCAA投与は肝機能、肝予備能の改善を介して患者の病態、QOLの改善、予後の延長が得られるものと期待される。

Late evening snack(LES)

 肝硬変におけるエネルギー低栄養状態の指標としては、間接カロリーメーターで測定した呼吸商(respiratory quotient;RQ)の低下がある。エネルギーは糖質、蛋白質、脂質の3大栄養素から作られる。RQ(VCO2/VO2)は、エネルギー産生のために用いる栄養素によって異なり、糖質:1、蛋白質:0.8、脂質:0.7となる。RQが1に近ければ糖質中心の燃焼、0.7に近ければ脂質中心の燃焼である。肝硬変では肝におけるグリコ−ゲン貯蔵能の低下、糖新生能力の低下があるため、絶食時間が長くなるとエネルギー基質として糖質を用いる割合が低下し、代償的に内因性の脂肪を用いる率が上昇する。これによりRQは低下する。肝硬変の早朝空腹時のRQは健常人の2〜3日間程度の絶食状態に匹敵するとされる。肝硬変でも、食後のRQは健常人と差が無いため、夕食後翌朝までの絶食がこれらの原因であるとされている。そこで就寝前200〜300 kcal程度の軽食を1日摂取量から分割する形で摂取し、翌朝までの絶食期間を短縮しRQの改善を図るという考え方が考案された。

 また、エネルギー低栄養状態ではアミノ酸からの糖新生も必要となるため、筋蛋白が分解され骨格筋量も減少し窒素出納は負となる。更に、肝硬変の栄養代謝異常はエネルギー代謝および糖質、脂質、蛋白質、アミノ酸代謝だけでなく、ビタミン、ミネラル、微量元素などにも及ぶ。このことから、近年では、LESは糖質中心のカロリー補充だけでなく、BCAAから微量元素にいたるまで全てを補う肝不全用栄養剤などの方がより適していると想定され、現在本邦においてRCTが進行中である。

肝庇護療法

 肝庇護剤の投与により、ALTを80 IU/l未満に抑えることが肝発癌防止につながると考えられている。C型肝硬変でALTの年平均値が80以上では5年間で44%が発癌したのに対し、ALTが持続して80未満に抑えられた群では5年で7%しか肝発癌しなかったとの報告があり、強力ネオミノファーゲンC、小柴胡湯、ウルソ、プロトポルフィリンなどを単独または多剤併用投与して、ALTを持続して80未満に抑えるよう努める。

特発性細菌性腹膜炎(SBP)

 有症状例は半数程度なので、腹水穿刺液の細菌培養と好中球数算定で判断する。細菌培養が陰性であっても、腹水中の好中球数が500/mm3以上、または好中球数が250〜500/ mm3の場合でも発熱、腹痛、腹部圧痛、腹膜刺激症状などの自他覚所見を伴えばSBPと診断すべきである。起因菌はE.Coli、Klebsiella、Streptococcusが多い。腹水の細菌培養検査では、血液培養ボトルでの陽性率が高いとされている。腎毒性の少ない広域スペクトラムのcefotaxime(セフォタックス®orクラフォラン®)2g×2divが有効との報告が多い。経口摂取可能な症例で合併症のないSBP患者では、cefotaximeに変えてニューキノロン系のofloxacin(タリビット®)400mg2×経口投与も効果の点で同等で治癒率は約85%との報告がある。再発予防に選択的腸管汚染除去としてnorfloxacin(バクシダール®)長期経口投与の効果が報告されている。しかし、いずれも大規模臨床試験は行われておらず、SBPの治療はいまだ臨床経験に基づいて行われているのが現状である。

IFN療法

 肝硬変症例の死因は、近年、①肝細胞癌(70%)、②肝不全(約15%)、③上部消化管出血(約7%)となっており肝発癌の予防、治療が重要である。IFN投与により、肝硬変でも肝の線維化ステージが改善し、肝発癌が抑制されることが近年相次いで報告されている。しかし本邦では、肝硬変に対するIFN治療は保険診療上はセロタイプnon-1およびセロタイプ1・低ウイルス量に対するβ-IFN(フェロン®)のみに限定されている。現在、代償性C型肝硬変に対するペグインターフェロンα2a/リバビリンの臨床治験が進行している。しかし、Child Cの肝機能高度低下例では反って肝不全を増悪させることもあるため、その適応に関しては慎重さが求められる。